「一般的な避難所と福祉避難所の違いがわからない」
「在宅介護をしているが、災害時における避難所での生活に不安がある」
自宅で暮らしている介護が必要な方、あるいは家族を介護する方のなかには、上記のような悩みがある方もいるのではないでしょうか。
福祉避難所は、指定避難所での生活が難しい「高齢者」や「障害のある方」が二次的に避難できる場所です。高齢者福祉施設や地域ケアプラザなどに開設されており、安全に避難生活を送れるように配慮されています。
本記事では「福祉避難所の概要」や「避難時の流れ」「災害に備えて取り組むべきこと」を中心に解説します。
記事目次
福祉避難所とは?
福祉避難所とは、一般の避難所で長期間生活を続けることが難しい「高齢者」や「障がいのある方」などを対象に開設される避難所です。
一般的な避難所には、高齢者や障がい者、妊産婦などの要配慮者向けのスペースを確保しています。しかし避難所での生活が難しいと判断された場合、二次的な避難所である福祉避難所を利用します。
全国の福祉避難所の数は2014年時点で7,647か所だったものの、2022年には9,072か所に増加しています。
参考:内閣府「福祉避難所の運営等に関する実態調査」
参考:内閣府「福祉避難所の確保・運営ガイドライン 主な改定のポイント」
対象者
福祉避難所として利用できる施設は限られています。そのため、支援の必要性が高い人を保健師をはじめとした専門職が判断し、優先度の高い方が対象です。
具体的には、以下のような方が対象となります。
- 高齢者(食事や排泄、移動などに支援が必要な比較的要介護度が高い方)
- 身体障がい者・障がい児(視覚障害や聴覚障害、肢体不自由などがある方)
- 知的障がい者・障がい児
- 精神障がい者・障がい児
- 難病患者
- 医療的ケア児
- 医療的ケアが必要な方
- 傷病者
- 妊産婦や乳幼児
- 上記の方の家族(原則1名まで)など
なお、すでに高齢者施設や障がい者施設などに入居している方は、入居先での対応となるため福祉避難所の対象外となります。
対象施設
福祉避難所は、災害対策基本法の基準で定められている施設の「規模」や「構造」「場所」などを踏まえて指定されます。
福祉避難所に指定されるのは、区役所と協定を締結している以下のような施設です。
- 地域ケアプラザ
- 高齢者福祉施設(特別養護老人ホーム・介護老人保健施設など)
- 障がい者支援施設
- 児童福祉施設
- 宿泊施設など
一般の避難所でも「空き部屋」や「一部を区切った部屋」などを使用し、福祉避難所を設置するケースもあります。また「総合体育館」や「大学のホール」などを活用した事例もあり、状況に応じて福祉避難所の機能を確保します。
生活環境
福祉避難所は、要配慮者が避難生活を送るのに必要となる以下のような環境整備に努めています。
- 施設のバリアフリー化(段差の解消、スロープの設置、障がい者用トイレの設置など)
- 通風・換気の確保
- 冷暖房設備の整備
- 非常用発電機の整備
- 情報関連機器の用意(ラジオ、テレビ、電話、無線など)
- そのほか必要な施設整備
また、衛生用品や介護用品などの物資は平時に一定程度備蓄しています。ただし全ての福祉避難所に、必ずしも用意されているわけではない点に注意しましょう。
ほかにも、要配慮者の生活を支援するために必要な「福祉関係職員」や「生活相談員」などの人材の確保にも努めています。ただし要配慮者に同行する家族は、要配慮者への支援だけでなく「周囲の避難者との協力」や「福祉避難所の運営への協力」などを求められるケースもあることを認識しておきましょう。
福祉避難所に避難する流れ
福祉避難所に避難する場合の流れは、以下のとおりです。
- 指定避難所に避難する
- 福祉避難所の対象者に該当するか確認する
- 福祉避難所に避難する
指定避難所に避難する
まず、身の安全の確保を最優先に、市内の小・中学校などの避難所に避難しましょう。要配慮者のうち、体育館などにおける避難生活に支障がある方向けに、要配慮者向けのスペースが用意されています。
福祉避難所は災害発生時から利用することはできないため、自宅での生活が困難な場合は避難所で生活します。
福祉避難所の対象者に該当するか確認する
福祉避難所の開設が必要だと判断された場合、要配慮者の状態をもとに専門職が支援の必要性が高い方を判断します。そして、専門職の判断をもとに「誰をどの福祉避難所で受け入れるか」を役所が判断し、市区町村が対象者を公示する流れです。
内閣府が制定しているガイドラインでは、施設ごとの受け入れ対象者の公示例として、以下のような形式を挙げています。
名称 | 住所 | 受け入れ対象者 |
社会福祉法人○○苑 | ○○市●●2-2-1 | 高齢者(要介護3程度) |
○○高齢者福祉センター | ○○市●●1-1-1 | 市が特定した者 |
▼▼障害者センター | ○○市●●2-1-1 | 身体障害者(視覚障害者、聴覚障害者) |
□□地区センター | ○○市△△1-1-1 | 妊産婦・乳幼児 |
参考:内閣府「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」
上記のような公示から、受け入れ対象者の条件に該当する施設を確認しましょう。
福祉避難所に避難する
受け入れ対象者に該当する施設を確認したら、実際に福祉避難所へ避難します。一般の避難所から福祉避難所に避難する際は、要配慮者本人・あるいはその家族などによる移動が原則です。
ただし、自主防災組織や民生委員、支援団体、地方自治体職員などによる支援が受けられるケースもあるため、必要に応じて相談しましょう。
なお「個別避難計画」を作成している場合は、事前に決めてある福祉避難所への直接避難が可能です。この場合は指定避難所ではなく、福祉避難所に直接向かいましょう。
福祉避難所への避難時の持ち物
介護が必要な方のなかには、特定の薬や医療機器が必要な場合があります。また安全に生活するために、一定の配慮が必要です。一般的な備蓄では対応できない可能性があるため、福祉避難所に避難する際は以下のような物を持参しましょう。
- これまでの生活が継続できる3日分の必需品(食料・飲料・常備薬・お薬手帳・着替えなど)
- 手元が照らせるライト
- 介護食に必要なとろみ剤
- 要配慮者だと示せる書類(介護保険被保険者証・障害者手帳など)
- 医療情報が確認できる書類(救急医療情報キット・ヘルプカードなど)
なお人工呼吸器を使用している方は、電源の確保に時間がかかる可能性があるため「非常用外部バッテリー」などの用意が必要です。
ほかにも、直腸膀胱機能障害の方は「ストマの使用に必要な装具・皮膚保護剤」永久気管孔のある方は「気管孔エプロンの予備」といった、要配慮者が日常的に使用している物品を必ず持参しましょう。
福祉避難所に関する2つの注意点
福祉避難所への避難が想定される場合、注意すべき点は次の2点です。
- 災害発生直後にすぐ利用できる場所ではない
- 利用中に統廃合される可能性がある
災害発生直後にすぐ利用できる場所ではない
福祉避難所は「災害の発生時または発生の恐れがあるときに、高齢者等避難が発令された場合」や「一般の避難所に避難した方のなかに福祉避難所の受け入れ対象者がいる場合」などに開設されます。
しかし、福祉避難所の開設には「施設の安全性の確認」や「福祉関係職員・生活相談員などの人材確保」「電気や水などの確保」などの準備が必要です。運営体制が整った施設から開設するため、災害発生から3日程度を目安に開設されます。災害発生直後から利用できる場所ではない点を認識しておきましょう。
また、災害の規模によっては「福祉避難所に指定されていた施設が甚大な被害を受ける」「収容人数・設備数に限りがある」といった理由により、開設や避難者の受け入れが困難なケースもあります。被害の状況によって利用できる福祉避難所や利用可否そのものが変わるため、最新情報の収集に努めましょう。
利用中に統廃合される可能性がある
災害発生から時間が経過して施設によって避難者数に差がある場合、福祉避難所が統廃合される可能性があります。そのため、1つの福祉避難所で必ずしも生活し続けられるわけではない点に注意しましょう。
福祉避難所からの入居先として「福祉仮設住宅」や「高齢者世話付き住宅(シルバーハウジング)」「社会福祉施設」などが挙げられます。利用先の福祉避難所が廃止される場合は、これらの住宅・施設への入居に関して相談してみましょう。
災害に備えて取組むべきこと
地震・豪雨をはじめとした災害は予見できないため、介護が必要な方の身の安全を守るには日頃から備えておく必要があります。災害に向けて平時から取り組めることは、おもに以下の5点です。
- 避難先を確認しておく
- 福祉避難所の位置を確認しておく
- 配慮が必要なことを示すツールを用意しておく
- 個別避難計画を作成する
- 要配慮者とともに避難訓練に参加する
避難先を確認しておく
災害時に避難する場所を確認しておく必要があります。ここで注意したいのは、災害時における避難先は「指定緊急避難場所」と「指定避難所」の2種類ある点です。
指定緊急避難場所は、切迫した災害の危険から逃れることを目的として定められています。地震や津波、洪水、崖崩れなどの災害の種類ごとに指定しており、発生した災害に応じて避難先が変わります。差し迫った危険を回避するための場所であることを認識しておきましょう。
また指定避難場所は、災害によって自宅で暮らすのが難しくなってしまった場合に生活する場所です。避難所が開設されるのは、震度5強以上の地震発生時が基準となっています。
平時に指定緊急避難場所と指定避難所の位置を確認し、災害時に迷わず避難できるように準備しておきましょう。
福祉避難所の位置を確認しておく
福祉避難所への避難は、指定避難所からの避難が原則なものの「個別避難計画」で自宅から直接避難するケースもあります。個別避難計画書では日頃から利用する施設を避難先とするケースが多いものの「職員による送迎がある」といった施設では、本人・家族が道順を把握できていない場合もあります。
災害発生時には「インターネット・電話がつながりにくくなる」「スマートフォンが破損・紛失する」といった可能性があるため、福祉避難所までたどり着けるように、あらかじめ位置を確認しておきましょう。
また指定避難所から福祉避難所へ移動する際は、要配慮者とその家族による移動が原則です。そのため、市内で福祉避難所に指定されている施設の位置を把握し、いざという時に備えましょう。
福祉避難所として協力締結している施設は、市区町村のホームページに掲載されています。たとえば横浜市泉区の場合は、以下のページから確認可能です。
横浜市泉区「福祉避難施設」
お住まいの地域のホームページを確認し、災害に備えて情報収集しておきましょう。
配慮が必要なことを示すツールを用意しておく
災害時に配慮が必要な方が支援が受けられるように、配慮が必要な方は「黄色いバンダナ」を、支援できる方は「緑色のバンダナ」を身につける取り組みが各地で行われています。
支援が必要なことが容易に伝えられる手段のため、黄色いバンダナ・ハンカチなどを用意しておくのも、災害時に向けて備えられる1つの方法です。
個別避難計画を作成する
災害時に備え「個別避難計画」を作成しておく方法もあります。個別避難計画とは、避難するにあたって支援が必要な場合に、1人ひとりの状況に合わせて避難支援を行うための計画です。災害時に「誰が支援するか」「どこに避難するか」「避難時にどのような配慮が必要か」といった内容が記載されています。
おもに対象となるのは「要介護度3~5の高齢者」をはじめとした自ら避難することが困難な方で、市区町村によって計画作成の優先度が高いと判断されます。要介護度や身体状況などから抽出し、ケアマネジャーや計画相談員などによって状況確認・作成の働きかけを行っています。
対象となる方には「同意確認書」をはじめとした書類が市区町村より送付され、希望者に対して書類を送付する自治体もあります。個別避難計画の作成は2021年から自治体の努力義務となったため、お住まいの地域によって実施の有無や進捗、実施方法などに差があります。
なお、個別避難計画で避難先に福祉避難所を定めている場合、自宅から直接避難可能となります。個別避難計画の作成を希望する方は、市区町村や担当のケアマネジャーに相談してみましょう。
要配慮者とともに避難訓練に参加する
地域で実施される避難訓練に、介護が必要な方とともに参加しましょう。いざという時に「どのように行動すればよいのか」が明確になるだけでなく、介助が必要な方と避難するのに「道幅が狭い場所がないか」「地震発生時に危険になりそうな場所がないか」などが確認できます。
また、防災訓練に参加する地域の方と顔見知りになれるため、災害時に孤立しにくくなります。家族だけで避難できない場合に手助けしてもらえる可能性もあるため、介護が必要な方とともに避難訓練に参加し、災害時に困らないように備えておきましょう。
まとめ
災害時に自宅や避難所での生活が難しい場合、高齢者や障害のある方が生活する場として「福祉避難所」の選択肢もあります。ただし、災害の規模や福祉避難所の運営体制、要配慮者の人数によって利用できるかどうかが異なるため、災害時には情報収集に努める必要があります。
平時から「避難先の確認」や「福祉避難所の位置」「避難訓練への参加」などに取り組み、家族全員が災害を乗り越えられるよう備えを万全にしましょう。
横浜市泉区にある特別養護老人ホーム・養護老人ホーム「白寿荘」は、福祉避難所として横浜市と協定を結ぶ施設です。大規模災害時、要介護認定を受けている方のうち「指定避難所・自宅での生活が困難」「施設職員による介助が必要」といった方を対象に、緊急入所を受け入れています。