「老健で看取るための条件・特徴は?」
「看取りを行える施設はほかにもあるの?」
家族が老健で暮らす方のなかには、このような疑問を持つ方が多いです。
老健で受けられる看取りは、医療的ケアを中心とした「ターミナルケア」です。痛み・不快感を和らげられるため、穏やかに過ごすことができます。
本記事では、老健で受けられる看取りの内容、看取りを行う介護施設の種類を中心に解説します。
記事目次
介護老人保健施設(老健)で受けられる看取りとは?
老健は、介護を必要とする高齢者の自立をサポートする施設です。医師の管理下で日常生活の支援、リハビリテーションを行い、在宅生活への復帰を目指します。
老健では、在宅支援の一環として看取りを行っています。医療提供施設に位置づけられているため、医療的なケアを中心とした「ターミナルケア」が受けられます。
老健に入所し続けられる期間は、原則3~6ヶ月です。しかし在宅復帰が難しいと判断された場合、継続して入所することができます。
看取りケアとターミナルケアの違い
看取りケアと混同されがちな言葉に「ターミナルケア」があります。いずれも余命わずかな方が対象です。無理な延命治療はせず、その人らしい最期が迎えられるように支援します。看取りケアに医療的なサポートを加えたものがターミナルケアです。
看取りケア
看取りケアは、食事・排泄・入浴の介助、褥瘡予防といった日常生活上の支援が中心となります。
ターミナルケア
ターミナルケアは日常生活上の支援に加えて、痛み・不快感を和らげる医療的ケアを行うのが特徴です。具体的には、医師の判断による点滴や酸素療法、たんの吸引、疼痛コントロールといったケアを行います。
看取りに関するサービスを受けると費用が上乗せされる可能性も
老健においてターミナルケアを受けた場合、亡くなった月の施設利用費に「ターミナルケア加算」が上乗せされる可能性があります。
ターミナルケア加算
ターミナルケア加算は、次の条件を満たした場合に発生します。
- 入所者に回復の見込みがない
- 入所者のターミナルケアに関して計画を作成している
- 入所者の希望・状態に応じてターミナルケアを実施している
亡くなる45日前から、当日まで加算されます。
ターミナルケアの内容
ターミナルケアは、次のようなケアを指します。
- 身体的ケア
- 精神的ケア
- 社会的ケア
それぞれの内容について解説します。
身体的ケア
痛みを和らげるための投薬や、食事、排泄、入浴介助といった身体的ケアを行います。
終末期では、身体の痛みが強くなることで精神的にも悪影響を及ぼします。希望に応じて鎮痛剤を投与し、苦痛を和らげることが可能です。
また口から食事を摂取できなくなるケースもあります。そのような場面で点滴、経管栄養といった方法で対応するのも、身体的ケアに含まれます。
ほかにも排泄・入浴といった介助を通して、身体の清潔を保ちます。不快感を感じずに心地よく生活できるように、日常生活を支援します。
精神的ケア
終末期の方は、死に対する不安や恐怖、家族の今後に対する心配といったさまざまな感情を抱いています。このような感情を軽減し、穏やかに過ごせるようなケアを行います。
医師や看護師、介護士といったスタッフとコミュニケーションをとることで、不安や孤独感を和らげます。
もちろん、限られた時間を家族や友人といった大切な人と過ごすことも大切です。不安を感じる時期だからこそ、本人の気持ちに寄り添えるように心がけましょう。
社会的ケア
ターミナルケアでは、長期間にわたって施設を利用したり、医療的なケアを受けたりすることがあります。これらが要因となって、大きな費用負担に悩まされるケースがあります。
経済的な不安の解決をサポートするのも、ターミナルケアの役割です。施設の相談員やケアマネージャーに相談すれば、公的な制度の紹介や手続きのサポートが受けられます。
看取るまでの流れ
施設でお看取りをする場合、入所してから最期を迎えるまで段階があります。
入所期
施設が提供できる看取りケアが、本人・家族の希望通りか確認しましょう。看取りに対する方針を決め、施設側と共有します。
安定期
施設での生活に慣れる時期です。精神・身体状況が安定しており、生活が楽しめるようになります。
不安定期
病気の再発・進行によって身体状況が悪化する時期です。精神面も不安定になるため、配慮が必要です。
終末期
病気の末期であり、回復が見込めない時期です。眠る時間が多くなり、食べることも難しくなります。
友人や親族に連絡をとったり、家族が最期のときに立ち会えるように準備したりします。
看取り期
眠る時間が長くなり、反応が少なくなってきます。手足が冷たくなったり、呼吸が不規則になったりします。
積極的な治療、救急搬送といった対応は行いませんが、施設はご本人・家族の意向を尊重して対応します。
看取りを行う介護施設の種類
介護施設では、デイサービスを除いたほとんどの施設で看取りを行っています。しかし医師との協力関係、スタッフの体制によっては、看取りに対応できない施設もあります。
また看取りを行う施設であっても、提供できるケア、費用に差があります。たとえば医療的ケアを希望しない場合、老健ではなく特別養護老人ホームの方がお看取りの場として適している可能性があります。
看取りを行う介護施設の種類は、次のとおりです。
- 特別養護老人ホーム(特養)
- 有料老人ホーム
- グループホーム
それぞれ解説します。
特別養護老人ホーム(特養)
特養は、介護を必要とする方の日常生活を支援する施設です。老健は在宅復帰を目指す施設ですが、特養は長期にわたって生活できる施設です。
生活の場であることから、顔なじみの利用者やスタッフに囲まれて過ごせます。また老健と比べると、費用が抑えられるのも大きな特徴です。
特養で提供されるのは「看取りケア」です。しかし、なかには医療的ケアを提供できる体制・設備を備える施設があります。
平成28年に厚生労働省は、特養においてターミナル期に実施された医療的ケアを調査しました。その結果、「たんの吸引」「服薬管理」「点滴」といったケアを行う施設があることがわかりました。
しかし「点滴」の実施率は34.4%であり、すべての施設で医療的ケアが受けられるわけではありません。本人・家族が希望するケアが受けられるかどうかは、入居前に確認しましょう。
参考:厚生労働省|介護老人福祉施設における医療的ケアの現状についての調査研究事業
入居条件
特養の入居条件は次のとおりです。
- 65歳以上で要介護3以上に認定されている方
- 40歳~64歳で特定疾患があり要介護3以上に認定されている方
- 特例によって入居が認められた要介護1・2の方
特養は、基本的に要介護3以上の方が対象です。老健と比べると入居条件は厳しいといえます。
有料老人ホーム
有料老人ホームは、高齢者が住みやすいように配慮された施設です。なかでも介護付き有料老人ホームは、介護が必要な方が日常生活上の支援を受けながら生活できます。
令和3年にPwCコンサルティング合同会社が実施した調査によると、看取りの希望を受け入れている介護付き有料老人ホームは7割以上という結果でした。
一方で医師の協力が得られないとして、看取りを受け入れていない施設もあります。また有料老人ホームは施設ごとに提供されるサービスやケア、費用に大きく差があります。
お看取りの場として選ぶのであれば、施設ごとの特徴を理解して判断しましょう。
参考:PwCコンサルティング合同会社|「高齢者向け住まいにおける運営形態の多様化に関する実態調査研究事業」報告書
入居条件
介護付き有料老人ホームは、要支援・要介護認定された高齢者が対象です。しかし、入居条件は施設によって異なります。
グループホーム
グループホームは、認知症の方が5~9人で共同生活する施設です。日常生活上の支援、認知症に特化した専門的なケアを受けられます。
グループホームは少人数で生活するため、家庭的な雰囲気が特徴です。一方で老健や特養と比べると、医療的ケアに対応できる施設が少ないといった面があります。
グループホームでは「療養上の世話」「たんの吸引」「酸素療法」といったケアが受けられず、退去するケースがあります。施設によって提供できる医療的ケアは異なるため、あらかじめ確認しましょう。
参考:厚生労働省|介護サービス情報公表システム「認知症対応型共同生活介護(グループホーム)」
入居条件
グループホームの入居条件は次のとおりです。
- 要支援2または要介護1~5の65歳以上の方
- 40歳~64歳で特定疾患があり要介護認定されている方
- 医師により認知症と診断された方
要支援1の方、認知症と診断されていない方は入居できないため注意しましょう。
まとめ
老健では、医療的ケアを中心とした「ターミナルケア」が受けられます。鎮痛剤による疼痛コントロール、酸素療法といったケアに対応できるため、苦痛を感じづらいのが特徴です。
しかしお看取りできる場のなかには、顔なじみの方と生活できる特養や有料老人ホーム、グループホームといった施設もあります。人生の最期を穏やかに過ごすためにも、納得してお看取りできる施設を選びましょう。