「介護で使う部屋の選び方が知りたい」
「レイアウトするときの注意点が知りたい」
在宅介護を始める方のなかには、このような疑問を持つ方が多いです。
介護部屋をレイアウトする際は、被介護者が安全に過ごせる環境を整える視点が大切です。加えて介護のしやすさも考慮すれば、介護者の負担が軽減できます。
本記事では、自宅介護で使う部屋の選び方、介護部屋をレイアウトするときの5つの注意点を中心に解説します。
記事目次
介護部屋のレイアウトに気を付けるべき理由
親や親戚の介護が急に必要になった場合、介護部屋を準備する時間がとれないことがあります。しかし部屋のレイアウトは、快適に自宅介護するうえで大切な要素です。
介護部屋のレイアウトに気を付けるべき理由は次の2つです。
- 家庭における事故を回避するため
- 「介護のしやすさ」が高まるため
それぞれ解説します。
家庭における事故を回避するため
被介護者が自宅で安全に生活するためには、介護部屋のレイアウトに注意が必要です。平成25年に独立行政法人国民生活センターが発表した資料によると、高齢者の事故の77.1%が自宅で発生しています。
家庭内における事故には、次のような事例があります。
- トイレに行こうとしてベッドから転落した。頭を打撲して骨折し、入院した。
- 階段を踏み外して転落した。かかとを骨折した。
- 風呂場で転倒した。太ももを骨折した。
事故は「転落」や「転倒」といったきっかけで発生する傾向があります。擦り傷や打撲、骨折といった怪我を負い、入院が必要になった事例もあります。
このような事故を防いで安全に生活するためにも、介護部屋のレイアウトには注意が必要です。
「介護のしやすさ」が高まるため
介護部屋のレイアウトを工夫することで、介護者の肉体的な負担が減らせます。被介護者のなかには、車椅子への移乗介助、おむつ交換といった介助が必要な方がいます。
介護者の動線を考慮しなければ、無理な姿勢で介助することになります。すると介護者が身体を痛めたり、怪我をしたりするリスクが高まります。
介護者・被介護者の双方が安全に生活するためには、介護部屋のレイアウトに工夫が必要です。
参考:独立行政法人国民生活センター|医療機関ネットワーク事業からみた家庭内事故-高齢者編-
自宅介護で使う部屋の選び方
介護部屋の選択肢が複数ある場合、次のポイントを押さえて選びましょう。
- 部屋の広さは確保されているか
- 移動しやすいか
- 設備と離れすぎていないか
それぞれのポイントを解説します。
部屋の広さは確保されているか
介護部屋を選ぶ際は、生活するのに必要な広さが確保できるかを確認しましょう。部屋の家具の大きさ、数、配置によっては、十分な広さが確保できないケースがあります。
介護が必要な方が生活する施設である「特別養護老人ホーム」において、1人あたりの居室の床面積は10.65㎡以上が基準です。そのため、介護部屋の広さは6畳以上を目安にしましょう。
移動しやすいか
部屋のなかを移動しやすいかどうかも大切なポイントです。被介護者が車椅子を使用する場合、安全に移動するために動線を確保する必要があります。
一方、歩いて移動する方の場合、部屋が広すぎると疲れてしまう可能性があります。被介護者の状態に合わせて、移動しやすい部屋を選びましょう。
設備と離れすぎていないか
生活で使用するトイレ、浴室、リビングといった設備との距離も重要です。
トイレ
トイレを使用する方の場合、なるべく近い位置の部屋を選びましょう。
トイレは1日で何度も使ううえに、寝ぼけて歩行が不安定になりがちな夜間も使用します。移動による転倒リスクを下げるためにも、動線は短くしましょう。またトイレに間に合わなくなってしまうリスクもあります。
浴室
浴室との距離が離れすぎていない部屋を選びましょう。
浴室までの距離が長すぎると、入浴そのものが億劫になる可能性があります。歩行介助や車椅子を使用する場合、被介護者だけでなく介護者にも負担がかかります。
リビング
被介護者の状態・性格を考慮して、リビングと介護部屋の位置を決めましょう。
被介護者が歩ける場合、介護部屋からリビングまで離れていれば歩く機会が生まれます。食事のたびにリビングまで歩けば、足腰の筋肉低下を防げます。トイレに比べて夜間での移動が少ないため、怪我のリスクが低いです。そのため歩行での運動を意識した設計にするといいです。
一方で寝たきりの方の場合、リビングから介護部屋が近ければ家族の会話、生活音が聞こえます。家族といることを意識でき、安心感が生まれます。にぎやかな雰囲気が好きな方であれば、リビングから近い部屋にしましょう。
介護部屋をレイアウトするときの注意点
介護部屋をレイアウトする際は、次の5つのポイントに注意しましょう。
- 介護ベッドの位置
- 動線の確保
- デザイン
- 床材の種類
- 照明の明るさ
それぞれ解説します。
介護ベッドの位置
介護ベッドは、一旦配置すると位置を変えづらいです。そのため、搬入する前にある程度は位置を決める必要があります。
被介護者の状態によっては、1日の大半をベッドの上で過ごします。そのため窓の外の景色や、テレビが見やすい位置に置きましょう。
また身体に麻痺がある方の場合、麻痺側が壁側になるようにベッドを配置します。そうすれば、麻痺のない手でサイドレールに掴まって、自分で起き上がることが可能です。
ベッドと壁の距離にも注意が必要です。スペースがないと、おむつやシーツ交換で、作業しづらく感じます。ベッドと壁のあいだには、人ひとりが入れるくらいのスペースを開けましょう。
動線の確保
部屋のレイアウトを考えるうえで、動線上の安全が確保できているかを常に意識しましょう。
高齢者が怪我をする事故のなかには、毛布やじゅうたんに足をとられて転倒してしまった事例があります。動線上に介護ベッドや家電のコードがあれば、足に引っかかって転倒する可能性もあります。
転倒につながる恐れがあるものは、部屋の隅に移動したり撤去したりして対応しましょう。
デザイン
被介護者が多くの時間を過ごす空間であるため、部屋のデザインも大切です。
高齢者は、暖色系の色は見やすい一方で、寒色系の色は見えにくい傾向があります。本人の希望がなければ、暖色系を意識して壁紙や床の色を決めましょう。
また認知症の方のなかには、本来ないものが見える「幻視」の症状がある方がいます。
壁や床、家具のデザインによっては「柄が虫に見える」「模様が人の顔に見える」といった幻視につながります。安心して生活するためにも、柄・模様がないシンプルなものを用意しましょう。
床材の種類
介護部屋には、フローリングである洋室が適しています。
畳が使われている和室は、介護ベッドをはじめとした家具を置くのに配慮が必要です。和室に入る際にスリッパを脱ごうとして、転倒してしまう可能性もあります。
一方、洋室はスリッパを着脱する機会が少ないです。車椅子も操作しやすく、スムーズに移動できます。
照明の明るさ
高齢者が過ごす部屋だからといって、ほかの部屋より照明を明るくする必要はありません。しかし読書や細かい作業をするときは、手元用のライトを用意する必要があります。
そのほか人感センサー付きのライト、足元を照らすライトがあれば、夜中にトイレに起きても安心です。
自宅の環境整備に介護保険が適用されるケースも
自宅介護を始める際に、住宅リフォームが必要になることがあります。リフォームの内容によっては、介護保険が適用される可能性があります。
また、介護ベッドや車椅子といった福祉用具が必要になるケースがあります。そんなときに介護保険で利用できるサービスがあります。
居宅介護住宅改修費
自宅介護のためにリフォームした場合、条件を満たせば「居宅介護住宅改修費」が支給されます。
リフォームするのに実際にかかった費用の9割が支給されます。対象となる工事費の上限は20万円のため、支給額の上限は18万円です。
対象
居宅介護住宅改修費の対象者は、次の条件を満たしている方です。
- 要介護認定を受けている
- 自治体によって支給が適当だと判断された
また、居宅介護住宅改修費の支給対象となるリフォームの種類は次のとおりです。
(1)手すりの取付け
(2)段差の解消
(3)滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更
(4)引き戸等への扉の取替え
(5)洋式便器等への便器の取替え
(6)その他前各号の住宅改修に付帯して必要となる住宅改修
引用:厚生労働省|福祉用具・住宅改修の概要
申請方法
居宅介護住宅改修費を受け取るには、リフォーム前に自治体に申請する必要があります。自治体に次の書類を提出しましょう。
- 支給申請書
- 住宅改修が必要な理由書
- 工事費見積もり書
- 住宅改修後の完成予定の状態がわかるもの(写真または図を用いたもの)
リフォームが完了したら、自治体に次の書類を提出します。
- リフォームにかかった費用がわかる領収書
- 工事費内訳書
- 完成後の状態が確認できる書類
- 住宅の所有者の承諾書
自治体に認められると、リフォームにかかった費用の9割が支給されます。
福祉用具貸与
福祉用具貸与は、全13種類の福祉用具をレンタルできる介護保険サービスです。
介護が必要な方の状態は、疾病や環境、加齢によって変化する傾向があります。福祉用具貸与は、そのときの状態に適した福祉用具を使えるのが特徴です。
対象
福祉用具貸与の対象者は、介護認定されている方です。レンタルできるのは次の福祉用具です。
- 介護ベッド(特殊寝台)
- 介護ベッドの付属品
- 車椅子
- 車椅子の付属品
- 床ずれ防止用具
- 体位変換器
- 手すり
- スロープ
- 歩行器
- 歩行補助杖
- 移動用リフト
- 徘徊感知機器
- 自動排泄処理装置
なお要介護度によっては、レンタルするのに介護保険が適用されない福祉用具があります。たとえば要支援1・2、要介護1の方の場合、介護ベッドのレンタルは保険適用の対象外です。
申請方法
福祉用具貸与を利用するには、まず担当のケアマネージャーに相談する必要があります。福祉用具をレンタルしたい場合は、ケアプランに記載してもらいましょう。
その後、福祉用具貸与事業者と契約したらサービスが開始されます。
介護部屋についてよくある3つの質問
介護部屋について、よくある質問は次の3つです。
- 介護ベッドが家の中を通るか不安です。
- 高齢者が使いやすい家具はどんなものですか?
- 介護ベッドを使うときの注意点はありますか?
それぞれの疑問を解消していきましょう。
質問1.介護ベッドが家の中を通るか不安です。
介護ベッドは分解が可能なものがあります。また玄関からの搬入が難しい場合、クレーンで吊り上げて窓から搬入する方法があります。
しかし介護ベッドの搬入方法は、ベッドの種類や家の構造によって異なります。既に購入してしまった方は、介護ベッドの販売店に不安に感じる内容について相談しましょう。購入前の方は入念にサイズを確認しておく必要があります。
質問2.高齢者が使いやすい家具はどんなものですか?
開け閉めが簡単にできる家具を選びましょう。重いと、高齢者にとっては使いづらい可能性があります。
タンスであれば、木製ではなくプラスチック製のものを選ぶと使いやすいです。
質問3.介護ベッドを使うときの注意点はありますか?
介護ベッドを使用する際は、被介護者がサイドレールに身体を挟まないように注意しましょう。
サイドレールのすき間に腕や足が挟まって、骨折するといった事故が発生しています。事故を防ぐには、サイドレール自体にカバーや毛布を被せるといった対策が有効です。
まとめ
被介護者の安全を守るには、介護部屋のレイアウトに注意が必要です。特に介護ベッドの位置は、被介護者の状態に合わせて事前に決めておきましょう。
自宅介護を無理なく続けるには、介護のしやすさを考慮した環境も大切です。介護部屋をレイアウトする際の注意点を踏まえ、安心して在宅介護が始められるように準備しましょう。