養護老人ホームの対象者は?入所方法から実際にあった事例まで紹介

養護老人ホームの対象者は?入所方法から実際にあった事例まで紹介

「養護老人ホームへの入所を検討しているが、対象者に該当するかわからない」

「詳しい入所要件を知って、施設選びの参考にしたい」

自宅での生活が難しく、施設への入所を検討されている方のなかには、上記のような悩みがある方もいるのではないでしょうか。

本記事では「養護老人ホームの対象者」と「2種類の入所方法」について解説します。施設選びの参考になるため、入所先を探している方はぜひお読みください。

養護老人ホームの対象者は?

養護老人ホームの対象者は?

養護老人ホームは環境上・経済的な理由により、自宅で生活するのが困難な高齢者が生活する施設です。高齢者の「養護」や「自立支援」を目的として運営しており、市区町村に認められた方のみが入所できます。

養護老人ホームの入所対象者は「環境上の事情」と「経済的事情」のいずれの要件も該当している方です。

環境上の事情では、以下のいずれにも該当している必要があります。

  • 健康状態:入院加療が必要な病態でないこと
  • 環境の状況:現在置かれている状況下での生活が難しいと認められること

また経済的事情では、以下のいずれかに該当すれば要件を満たしていると判断されます。

  • 申請者が属する世帯が生活保護法による保護を受けていること
  • 申請者、および申請者の生計を維持している方が市町村民税の所得割非課税である世帯に属していること
  • 災害やそのほかの事情により、申請者の属する世帯の生活状況が困窮していると認められること

具体的には、以下のような入所者像が挙げられます。

  • 1人暮らしの高齢者
  • 無年金をはじめとした経済的に困窮した方
  • 虐待を受けている高齢者
  • 身体的な障害のある方
  • 認知症や精神的な障害のある方
  • ほかの施設への入所が難しい高齢
  • 賃貸住宅から立ち退きを要求された方
  • 犯罪歴のある方

なお、養護老人ホームは基本的に65歳以上が対象です。ただし必要性が認められた場合に限り、60歳以上であっても入所が認められるケースがあります。

60歳未満で入所可能なケースも

60歳未満の方の場合、以下のいずれかに該当すると判断されれば入所が認められる可能性があります。

  • 老衰が著しく、かつ救護施設の入所要件を満たしているにも関わらず、救護施設に受け入れる余力がないことが理由で、救護施設に入所できない場合
  • 初老期における認知症に該当する場合
  • 夫婦であるA・Bがいて、Aが養護老人ホームの入所措置を受ける場合で、年齢以外の入所基準にBが当てはまる場合

養護老人ホームの入所方法

養護老人ホームの入所方法

養護老人ホームでは、基本的に市区町村の措置によって入所する施設です。しかし措置入所に影響を及ぼさない場合に限り「契約入所」も受け付けています。それぞれの入所方法と事例について解説します。

措置入所

措置入所は、申請者が置かれている環境や経済的な事情に関して調査を受けたのちに、市区町村の「入所判定委員会」を経て、養護老人ホームへ入所する方法です。

実際にあった入所事例

養護老人ホームにおける措置入所について、実際にあった事例を紹介します。

80歳代の女性で認知症のあるAさんは、要支援1に認定されていました。単身で生活保護を受給しながら自宅で生活していたものの、認知症により金銭管理ができないことから友人が支援に関して相談しました。生活保護での有料老人ホームへの入所が困難であり、かつ要支援1のためグループホームへの入所も難しく、養護老人ホームへの措置入所となりました。

契約入所

契約入所は、措置入所が必要な方に支障がないように配慮したうえで、定員に余力がある場合に限り受け付けている入所方法です。

居住に課題を抱える方が対象であり、たとえば「一定程度の所得がある視覚障害のある方」や「低所得者・高齢者などの住宅確保配慮者」が該当します。

なお、2023年に全国老人福祉施設協議会が発表した「養護老人ホーム 被措置者数等調査結果」によると、契約入所を実施している養護老人ホームは全体の1/4程度でした。すべての施設で契約入所を受け付けていないことを認識しておきましょう。

参考:全国老人福祉施設協議会「令和4年度 養護老人ホーム 被措置者数等調査結果

実際にあった入所事例

養護老人ホームにおける契約入所について、実際にあった2つの事例を紹介します。

80歳代の男性Bさんは、家族との関係悪化のために市区町村から同居が判断され、養護老人ホームに短期措置入所しました。その後、市区町村による措置入所が終了して契約入所に切り替わっています。

90歳代の女性Cさんは、デイサービスを利用していたものの、面倒を見ていた家族が体調を崩してしまいました。自宅での生活継続が困難となり、特養への入所待ちのために養護老人ホームに契約入所しています。

このように、養護老人ホームの入所事例にはさまざまなケースがあります。対象者の判断は市区町村によって異なるため、入所を検討している方は「市区町村の役所」や「地域包括支援センター」「養護老人ホーム」などに相談してみましょう。

養護老人ホームの入所率は減少傾向

養護老人ホームの入所率は減少傾向

養護老人ホームの施設運営に必要な措置費は、地方交付金から支出されます。措置の実施による支出増大を懸念し、措置が必要な方に対して入所措置を行わない「措置控え」が生じています。

2022年から2023年にかけて「全国老人福祉施設協議会」が実施した調査によると、養護老人ホームの入所率は以下のように推移しています。

2018年2019年2020年2021年2022年
90.0%89.9%89.8%88.9%87.2%

5年間で入所率は約3%減少した結果となりました。また施設数に関しては、2018年には952施設だったものの、2022年には933施設に減少しています。施設の定員数も減少していることから、今後も限られた方のみが入所可能な施設であると考えられます。

参考:全国老人福祉施設協議会「令和4年度 養護老人ホーム 被措置者数等調査結果

養護老人ホームのサービス内容

養護老人ホームのサービス内容

養護老人ホームは、高齢者の自立・社会復帰を目指して支援するため、日常生活を送るのに必要なサービスを提供しています。たとえば「食事の提供」や「定期的な健康診断」「社会復帰・自立を目指すためのサポート」などが受けられます。

レクリエーションも実施されており、なかにはカラオケや園芸、ゲートボールなどに参加できる施設もあります。経済面に関する相談も可能なため、施設で生活しながら自立を目指せます。

介護サービスが受けられる施設も

養護老人ホームは、原則として介護サービスは提供されない施設です。しかし、今後介護サービスが必要となる入所者の増加が見込まれることから、介護サービスが受けられる「特定施設入居者生活介護」に指定されている施設もあります。

特定施設入居者生活介護に指定されている養護老人ホームは、おもに「一般型」と「外部サービス利用型」に分けられます。それぞれの特徴を解説します。

一般型

一般型では、施設に常駐する介護・看護職員による介護サービスが受けられます。ケアマネジャーも配置されているため、介護サービスを受けるのに必要なケアプランの作成も可能です。

外部サービス利用型

外部サービス利用型では、介護サービスに必要なケアプランが作成してもらえます。一方、介護サービスは施設が委託する事業者が提供するため、1対1でスポット的な介護サービスが受けられます。

養護老人ホームの利用時にかかる費用

養護老人ホームの利用時にかかる費用

養護老人ホームは経済的に困窮している高齢者を対象としているため、1人ひとりに支払可能な額が設定されているのが特徴です。養護老人ホームの入居・利用にかかる費用を解説します。

初期費用

有料老人ホームやグループホームなどの施設では高額な初期費用がかかるケースもある一方で、養護老人ホームの入居時に初期費用は一切必要ありません。

理由として、養護老人ホームは「困窮している高齢者が自立・社会復帰を目指す施設」であることが挙げられます。自立できた場合は退所となるため、長期的な利用は想定されていないことから「入居一時金」や「敷金」は徴収していません。

月額費用

養護老人ホームに措置入居する際の月額費用は、前年度の1月~12月までの収入をもとに決定します。39段階のなかから、該当する区分の費用を支払います。

月額費用の目安は以下の表のとおりです。

1年間の収入(前年)月額費用の目安
区分10円~270,000円0円
区分2~28270,001円~1,000,000円1,000~49,800円
区分29~381,000,001円~1,500,00051,800円~81,100円
区分391,500,001円以上150万円超過額×0.9÷12月+81,100円
(100円未満切捨て)

参考:厚生労働省|老人保護措置費の国庫負担について

たとえば、前年度の収入が25万円だった場合の月額費用は0円となります。また、100万円だった場合の月額費用は4万9,800円です。負担可能な範囲で設定してもらえるため、経済的に不安な場合でも安心して利用できる施設です。

前年度の年収は「年金収入-(医療費+社会保険料)= 対象収入」の式で計算します。具体的な月額料金を求めたい方は、式を用いて計算してみましょう。また、扶養義務者の収入に応じて費用負担が発生する場合もあります。詳しくは、お住まいの市区町村にお問い合わせください。

なお、契約入所の場合は施設ごとに料金設定が異なります。あらかじめ入所先の施設に確認しておきましょう。

養護老人ホームの職員構成

養護老人ホームの職員構成

施設内で介護サービスが受けられる「一般型」に該当しない養護老人ホームの場合、介護職員は配置されていません。代わりに「支援員」と呼ばれる職員が入所者15人に対し、1人配置されています。

ほかにも、以下のような専門職が配置されています。

職種人数
施設長1人
医師入所者に対して必要な数
生活相談員入所者30人に対して1人
支援員入所者15人に対して1人
看護師または准看護師入所者100人に対して1人
栄養士1人以上

ほかにも調理員や事務員、ケアマネジャー、機能訓練指導員など、養護老人ホームの運営に必要な数の職員が配置されています。

養護老人ホームと特別養護老人ホームの違い

養護老人ホームと特別養護老人ホームの違い

養護老人ホームに似た名称の施設に「特養(特別養護老人ホーム)」があります。特養と養護老人ホームのおもな違いは「入所可能な対象者」と「サービス内容」です。

特養は、原則として要介護3以上の高齢者が入所できる施設です。日常生活を送るのに介護が必要なため、食事や入浴、排泄などの場面で介護職員による介護が受けられます。また「医療的ケア」や「看取り」にも対応しており、長期的に住み続けられる環境です。

一方養護老人ホームは、原則として介護が必要なく自立している方が入所できる施設です。基本的に介護サービスは提供されず、高齢者の「自立」や「社会復帰」を目指して支援するため、長期的な滞在は想定されていません。

特養は「介護が必要な高齢者が日常生活のサポートを受けながら生活する場」であるのに対し、養護老人ホームは「困窮した高齢者が自立・社会復帰を目指し、必要なサポートを受けながら生活する場」となっています。

養護老人ホームに入所する流れ

養護老人ホームに入所する流れ

養護老人ホームに入居するまでの流れは、以下のとおりです。

  1. 入所相談
  2. 入所申込
  3. 入所審査
  4. 入所可否の審査
  5. 決定・入所

養護老人ホームの入居可否は、市区町村によって判断が異なります。たとえば、入所要件である「環境の状況」では「現在置かれている状況では生活が難しい」と判断された場合に要件を満たせます。この基準は判断が分かれるため、入所審査の際には「生活状況」や「経済状況」で困っている部分を細かく伝えることで、適切な支援につなげてもらえる可能性が高まります。

養護老人ホームに入所するまでの流れは、以下の記事で詳しく解説しています。各ステップの内容を具体的に確認したい方は、ぜひお読みください。

参考記事:養護老人ホームにかかる費用は収入によって異なる!入居までの流れや事例を紹介します

まとめ

まとめ

養護老人ホームは、高齢者の「養護」や「自立支援」を目的に運営されているため、自宅で生活するのが困難な方が対象です。収入に応じて支払い可能な範囲で利用料金が設定されるため、経済面に不安がある方でも、安心して利用できます。

入所要件に該当している方は養護老人ホームでの生活も視野に入れ、市区町村の窓口に相談してみましょう。

横浜市泉区にある「白寿荘」は、100年以上の歴史を持つ社会福祉法人 神奈川県匡済会が運営する養護老人ホームです。

生活の場として明るく楽しくホームで生活していただくことで、その方の福祉と家庭生活の安定を図ることを目的に運営しています。相鉄いずみ野線「いずみ野駅」から徒歩8分に位置しており、立地のよい環境です。

この記事を書いた人

かいごマガジン編集部

かいごマガジン編集部です。
介護の専門的な情報をどこよりもわかりやすく紹介していきます。
また、世の中の介護がどのように変化していっているのか最新の情報も随時発信していきますのでお楽しみに!
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