終末期医療は、余命わずかな方が穏やかに過ごせるように支援するケアです。
終末期医療は「病気の回復が見込めない」「延命治療を望まない」「最期まで穏やかに過ごしたい」といった理由で選択されます。ケアを受けている間も、本人や家族、医療チーム間で繰り返し話し合い、意思確認を行います。
本記事では、終末期医療を選択する要因、ケアの内容を中心に解説します。
記事目次
終末期医療(ターミナルケア)とは?
終末期医療とは、余命わずかな方が穏やかに過ごせるように支援するケアです。延命を目的とした治療は行わず、病気による痛みや不快感を取り除きます。
対象となるのは、医師から病気の治療による回復が見込めないと判断された、余命数か月以内の方です。
終末期医療に関するガイドラインとは
「終末期医療に関するガイドライン」とは、終末期を迎えた患者および家族と医師をはじめとする医療・介護従事者が、最善の医療とケアを行うためのガイドラインです。
「終末期医療の在り方」や「終末期医療の方針の決定手続き」といった点に関して、基本的な内容・プロセスを示しています。
現在、看取り・療養といったニーズが在宅や施設で高まっています。そのため2018年に、在宅や施設での活用を想定した内容に改訂されました。
終末期医療(ターミナルケア)を選択する背景
終末期医療を選ぶ背景には、次のような要因があります。
病気の進行と治療の限界
終末期医療は「病気の治療による回復が見込めない」「積極的な治療を望まない」といった場合に選択されます。病気の症状・治療による苦痛を取り除き、最期の時間を穏やかに過ごすことを優先します。
終末期医療は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、筋ジストロフィー症、認知症、がんの進行や老衰といった原因により、余命数か月と判断された方を対象に検討されます。
患者本人やその家族が「病気の治療」や「延命目的の医療行為」を望んだ場合、希望に沿った処置が優先されます。
苦痛の軽減とQOLの向上
病気によって苦痛が生じる場合、QOL(生活の質)を向上させるために選択されるケースがあります。
終末期の患者は、精神的・身体的な苦痛を感じるケースがあります。その場合、鎮痛剤や医療用麻薬を使用し、苦痛を和らげます。
また通常の治療では、アルコール類やたばこ類が禁止されます。しかし終末期医療を行うホスピスでは、QOL向上の観点からこれらを認めているケースがあります。
終末期医療では「余命わずかな時間をより良く過ごす」といった点に、重きを置いたケアを行います。
自己決定権の尊重
「終末期医療を行うか」は、患者またはその家族の意思によって決まります。
かつての医療現場では、終末期であっても本人が生きている限り積極的に治療をおこなっていました。しかし、本人が望まない延命治療をおこなうことにより「尊厳死を迎えられない」「身体的・経済的につらい思いをする」といった問題が起こることから、これまでの考え方が疑問視されました。
その結果、終末期の患者の選択肢として「終末期医療」が加わりました。
終末期医療を選ぶ方のなかには「最期のときまで穏やかに過ごしたい」「治療による痛みや苦痛から解放されたい」といった希望を持つ方がいます。
家庭での時間の尊重
病院に入院している方が「慣れ親しんだ環境で家族と過ごしたい」といった目的で、自宅で終末期医療を受けるケースがあります。
自宅では、住み慣れた環境でリラックスして過ごすことができます。医師や看護師が訪問するため「酸素吸入」や「点滴」といった医療的ケアを自宅で受けられます。
自宅で終末期医療を受けると「残された時間を家族と過ごせる」「本人の孤独感を和らげることができる」といったメリットがあります。
医療費や介護人材の観点
治療を限界まで行ったうえで回復が見込めない場合、医療費を終末期医療に費やすことを選ぶケースがあります。
病気の治療には費用がかかります。たとえば先進医療による治療は、公的医療保険の対象外です。治療費は全額自己負担となるため、金銭的負担が大きい傾向があります。
治療を限界まで行った場合、終末期医療に移行して残りの時間を穏やかに過ごすことを優先するケースがあります。
終末期医療であっても、入院する場合は治療費、部屋代、差額ベッド代といった費用がかかります。今後かかる費用と「本人が望む生活」を考慮して、終末期医療を選ぶ場合があります。
終末期医療(ターミナルケア)の問題点
終末期医療の問題点は次の3つです。
意思の尊重と決定の困難さ
終末期医療は、本人の意思に基づいて指針を決めます。しかし状態によっては、患者本人が意思を示すことが難しい場合があります。
本人の意思を確認できない場合「家族などが本人の意思を推定する」「家族などと十分に話し合う」「医療・ケアチームのなかで慎重に判断する」といった方法で、本人にとっての最善の方針をとることが基本です。
そのため、日頃から家族と「終末期を迎えたときの希望」について話す必要があります。
自分の意思を示すには「エンディングノート」や「リビングウィル」といったものを活用する方法もあります。
エンディングノートは、自分の人生や最期に関して記録しておくノートです。具体的には、人生の振り返り、家族への思い、受けたい医療、遺品整理、葬儀についてといった内容を記録します。
リビングウィルは、医療・ケアの選択について事前に意思表示しておく文書です。具体的には、自分が望む医療、望まない医療、延命治療についてといった内容を記録します。
このようなアイテムを活用することで、万が一のときでも自分の意思を伝えることができます。
社会的な偏見と認識の問題
終末期医療を選択することで「治療を諦めた」と認識されるケースがあります。そのため、患者や家族が選択をためらうケースがあります。
終末期医療は積極的な治療は行わず、最期の時間を苦痛なく過ごすことを目的としています。しかし終末期医療を選択しても、本人や家族、医療チーム間で繰り返し話し合います。そのため「諦めずに治療したい」といった方針転換は、いつでも可能です。
人材不足とケアの質
終末期医療には、医師や看護師をはじめとしたさまざまな医療・介護スタッフが関わります。しかし少子高齢化にともない、医療・福祉業界の人材不足は深刻化しています。
病院が人材不足であれば、1人あたりのスタッフが受け持つ患者数が増えます。すると個々の患者に対して、きめ細やかなケアの提供が難しくなる可能性があります。
自宅で終末期医療を受ける場合、訪問診療、訪問看護、訪問介護といったスタッフからケアを受けます。ケアを提供する人材がいなければ、自宅で過ごすことも難しくなります。
終末期医療(ターミナルケア)の支援方法
終末期医療は次のケアと類似しています。それぞれの特徴を解説します。
ホスピスケア
ホスピスケアは「ホスピス」という、終末期患者のための医療機関で行われるケアを指します。痛みを和らげることを目的としています。
看取りケア
看取りケアは、自宅や介護施設で最期を迎える方に行うケアです。慣れ親しんだ環境で最期を迎えられるようにケアをします。
延命治療は行わず、体調管理に必要な身体的ケア、コミュニケーションを取る精神的ケア、食事や排泄、褥瘡(じょくそう)予防といった支援を行います。
緩和ケア
緩和ケアは、がんやエイズといった病気を診断された方に行うケアです。
終末期医療との大きな違いは「開始時期」です。終末期医療は、死が迫った状況で開始されます。一方緩和ケアは病気の進行度に関係なく、診断された瞬間から始まります。
「緩和ケアを受けながら、治療も行う」といった選択をするケースもあります。
終末期医療(ターミナルケア)の内容
終末期医療で受けられるケアは、おもに次の3種類です。
身体的ケア
身体的ケアでは、身体の痛みを和らげる鎮痛剤の投与を行います。ほかにも食事・入浴・排泄介助といった日常生活に必要なケアを行います。
口から食事を摂取できない場合、点滴や経管栄養、胃ろう、中心静脈栄養といった方法で栄養補給します。この場合、生命を維持することになるため、本人や家族の意思に応じて実施します。
また、終末期における入浴は体力を消耗します。そのためベッド上で身体を拭く「清拭」を行い、清潔を保ちます。
精神的ケア
終末期では死に対する恐怖・不安といった感情から、精神的に不安定になります。そのため寄り添ってコミュニケーションを取り、穏やかに過ごせるような精神的ケアを行います。
家族や友人といった、周囲の人と接する時間も大切です。孤独やさみしさを感じないように、本人の感情に寄り添いましょう。
また「趣味の時間をつくる」「本人の周りに好きなものを置く」といったことも、精神的ケアに含まれます。本人が心穏やかに過ごせる環境作りを心掛けましょう。
社会的ケア
終末期医療では医療的ケアを受けるため、費用の負担に悩まされるケースがあります。このような場合に、医療ソーシャルワーカーが費用面の問題解決をサポートするのが社会的ケアです。
具体的には「医療費の軽減」を目的とした制度を紹介してもらうことができます。ほかにも「遺産相続」「遺品整理」「家族のストレス」といった内容を相談できます。
まとめ
終末期医療では、最期の時間を穏やかに過ごすためのケアを受けられます。病院や施設、自宅といった場所で提供されるため、本人が安心できる場所を選ぶことができます。
終末期医療は、本人の意思に基づいて指針を決定します。本人や家族、医療チームを含めて繰り返し話し合うため、方針転換はいつでも可能です。
本人・家族と納得できるまで話し合い、その人らしい最期を迎えられる方法を選びましょう。