「親を施設に入れる手順がわからない」
「施設にかかる費用を負担できるか不安だ」
親を含めた親族を在宅介護している方のなかには、このような悩みをお持ちの方が多いです。
親を介護施設に入れるには、本人を含めた家族全員で話し合って希望条件などを明確にする必要があります。その後、希望条件をもとに施設を探し、見学をしてから入居、という手順を踏むことで「納得できる介護施設」を選べます。
本記事では、親を施設に入れる手順と費用に不安があるときの対応策を中心に解説します。
記事目次
親を施設に入れる6つの手順
親を施設に入れる手順は次のとおりです。
- 本人と家族全員で話し合う
- 希望条件を決める
- 条件に合った施設を探す
- 施設を見学・体験入居する
- 希望の施設に申し込む
- 契約して施設に入居する
手順ごとに詳しく解説します。
1.本人と家族全員で話し合う
親を施設に入れることを検討する際には、まず入居する本人を含めた家族全員で話し合いましょう。本人や兄弟姉妹に無断で手続きを進めれば、入居後にトラブルが発生する恐れがあります。
家族全員の話し合いでは、次の内容を押さえましょう。
本人の意思を確認する
本人の施設入居に対する意思を確認しましょう。本人が入居に対して納得していなければ、施設の希望条件などを決められません。
入居まで無理やり進めたとしても、本人との信頼関係を失ったり施設側とトラブルになったりする可能性があります。入居後に理想の生活を送ってもらうためにも、本人の意思は必ず確認しましょう。
家族の役割分担をする
話し合いの場では、家族の役割分担を明確にしましょう。
介護施設に入居するにあたって、連帯保証人や身元引受人が必要です。別々に立てなければならない施設もあります。
ほかにも、病気や怪我で救急搬送された場合などに連絡が来る連絡先も決めておかなければなりません。
場合によっては病院に駆けつける必要があります。担当者には心理的・身体的な負担がかかることを念頭に置いておかなくてはいけません。
また、施設で暮らすには入居一時金だけでなく、月々の費用もかかります。親の年金額や貯金額だけでなく、いざというときに兄弟姉妹が工面できる金額を知っておけば、施設選びにも役立ちます。
特定の家族に心理的・身体的・経済的な負担が偏らないように、家族全員が納得できるまで話し合いましょう。
2.希望条件を決める
入居後に後悔しないためにも、あらかじめ介護施設に求める以下の条件を整理しましょう。
- 施設形態
- 費用
- 場所
- 受けられるケア
それぞれ解説します。
施設形態
介護施設にはさまざまな種類があり、それぞれ特徴や入居条件が異なります。具体的には次のような施設があります。
公的施設 | 民間施設 |
特別養護老人ホーム(特養) 養護老人ホーム 介護老人保健施設(老健) 介護医療院 ケアハウス | 介護付き有料老人ホーム 住宅型有料老人ホーム 健康型有料老人ホーム サービス付き高齢者向け住宅 グループホーム シニア向け分譲マンション |
公的施設は、民間施設よりも費用が抑えられるのが特徴です。一方で入居条件が厳しく、入居までに時間がかかることも少なくありません。
民間施設は民間企業が運営しているため、幅広いサービスが用意されているのが特徴です。しかし、介護が必要になると暮らし続けられない施設や、初期費用や月々にかかる費用が高額な施設もあります。
入居条件や費用、入居する本人の介護の必要度を考慮し、希望する施設の種類を決めましょう。
費用
施設によってかかる費用に差があるため、負担できる金額に応じて予算を設定しましょう。施設への入居にかかる入居一時金などの初期費用は、必要な施設と不要な施設があります。
たとえば、有料老人ホームのなかには初期費用が必要な施設もありますが、公的施設である特別養護老人ホームでは初期費用が一切かかりません。月々にかかる費用も施設形態やサービス内容などによって大きく差があるため、無理なく払い続けられる施設を選びましょう。
場所
施設での生活を左右するため、場所や周辺の環境は重要な要素です。
入居する本人が住み慣れた地域だったり、商業施設や公園などが周辺にある環境だったりすれば、外出する意欲も沸きます。また家族の居住地に付近であれば、気軽に面会に行けます。
「入居する親の生活のしやすさ」と「家族の通いやすさ」を考慮して、希望する場所を決めましょう。
受けられるケア
施設によって受けられるサービスは異なりますが、なかでも医療的なケアに対応できる施設は限られています。医療的ケアとは、次のようなケアを指します。
- 経鼻経管栄養
- 胃ろう・腸ろう
- たんの吸引
- 酸素療法
- 気管切開のケア
- 人工肛門・膀胱の管理
- インスリン注射など
上記のようなケアが必要な場合は、優先的に希望条件に加えましょう。ほかにも、延命治療せずに最期を迎える「看取り」に対応していない施設がありますので注意してください。
そのような施設で看取りの支援が必要になると、病院などに入院しなければならないケースがあります。どこまでの支援を希望するかも整理しておきましょう。
3.条件に合った施設を探す
整理した希望条件をもとに施設を探しましょう。すべての希望条件を叶えようとすると選択肢が限られるため、優先順位をつけることも大切です。
施設を探す方法には次のようなものがあります。
- 地域包括支援センターに相談する
- ケアマネージャーに相談する
- 老人ホーム紹介センターに相談する
- インターネットで検索する
- インターネットや電話で資料請求する
担当のケアマネージャーがいる場合は、まず相談してみましょう。
ケアマネージャーはさまざまな介護施設や事業所とやり取りするため、多くの情報を持っています。入居する本人の性格や状態も理解しているため、相性のよい介護施設を提案してもらえる可能性があります。
4.施設を見学・体験入居する
入居したい施設の候補が決まったら、見学や施設の生活を体験してさらに絞り込みましょう。見学や体験入居をするには、あらかじめ施設に連絡して予約する必要があります。
見学・体験当日は、次のポイントに注意して施設をチェックしましょう。
- 駅から施設までアクセスしやすいか
- 居室のスペース・設備は十分か
- 居室のプライバシーは確保されているか
- 清掃が行き届いているか
- 介護スタッフの対応は丁寧か
- 入居者の表情は明るいか
- 過去に入居者が退去したケースはあるか(どのような理由で退去したのか)
体験入居ができる施設であれば、夜間や早朝の雰囲気もチェックできます。体験入居ができない施設であってもショートステイのサービスを行っていれば、施設での生活を疑似体験できるでしょう。
見学だけでは気付けない部分もあるため、体験入居やショートステイは積極的に利用しましょう。
5.希望の施設に申し込む
複数の候補から入居する施設を決めたら、申し込みに必要な書類を準備します。施設の入居申し込みに必要な書類の一例は、次のとおりです。
- 診療情報提供書
- 健康診断書
診療情報提供書は、医師がほかの医療機関に患者を紹介する際に発行する書類です。患者の氏名や生年月日、傷病名、処方している薬などの情報が記載されています。
健康診断書は、入居する本人の健康診断結果が記載されている書類です。健康診断の項目には、血液検査や尿検査、胸部レントゲン、感染症の有無などがあります。
施設によって必要な項目が異なるため、健康診断を受ける前に記載が必要な項目を確認しましょう。これらの書類をもとに施設長やケアマネージャーなどと面談し、その内容を受けて施設内で審査を行います。
6.契約して施設に入居する
審査に通ったら、施設と契約を結びます。施設との契約で必要な書類の一例は、次のとおりです。
- 戸籍謄本
- 住民票
- 印鑑証明
- 連帯保証人などの印鑑証明
施設側が用意する入居契約書などに押印が必要なため、印鑑も忘れずに持参しましょう。
契約を締結したら入居日を決め、転居に向けて準備します。施設によって持ち込める私物に差があるため、あらかじめ確認しましょう。
親を施設に入れるタイミングは?
令和元年に厚生労働省が在宅介護で介護にかかる時間を調査したところ、要介護3以上の家族を介護する方はほとんど終日を介護に費やしていることがわかりました。
介護に費やす時間が長ければ、家族の生活にも影響を及ぼしかねません。親を施設に入れることを検討するタイミングには、どのようなものがあるのでしょうか。
介護疲れが限界に達したとき
十分な休息が取れずに限界を感じたら、親を施設に入れるタイミングです。介護が必要な方のなかには、トイレ介助やおむつ交換などの支援が必要な方もいます。
夜間も手伝いが必要であれば家族の負担は大きくなり、介護疲れを感じることもあります。介護による共倒れを防ぐためにも、介護疲れが解消できなければ早めに施設入居を検討しましょう。
仕事と介護の両立が難しくなったとき
仕事と介護の両立が難しいと感じたら、在宅介護を見直すべきタイミングといえます。
在宅介護では家族が配慮すべき点が多いうえに、睡眠時間が確保できないこともあります。疲労が溜まって仕事に集中できなければ、仕事にも支障がでる恐れがあります。
生活だけでなく介護にも費用がかかるため、収入を失えば家族の生活にも大きな影響を与えます。介護が原因で仕事に影響が出始めたら、親を任せられる施設への入居を検討しましょう。
身の危険を感じたとき
認知症の方を介護するなかで身の危険を感じたら、プロの手を借りましょう。
認知症によって、暴言や暴力行為などのBPSD(行動・心理症状)が見られるケースもあります。在宅介護ではいざというときに人の助けを借りることが難しく、家族だけでは対応が難しい場面もあります。
BPSDは、認知症を患う方の本来の性格や身を置く環境などが要因で発症しますが、適切なケアを行えば症状が軽減します。暴力などによって危険を感じたら、認知症ケアに特化した施設への入居を検討しましょう。
介護者が精神的に限界を感じたとき
介護する家族が精神的に限界を感じたら、お互いの生活のために施設入居すべきタイミングといえます。在宅介護のためにプライベートな時間が少なくなれば、趣味や好きなことに使える時間も限られます。
加えて休息が取れない状況であれば、精神的に追い詰められて虐待や介護うつにつながる恐れもあります。施設に入居すれば、適度な距離を保って接することができます。精神的に辛いと感じたら、施設入居を検討しましょう。
介護者の見守りが常時必要になったとき
親を常に見守らなければ危険だと感じたら、在宅介護の継続は難しいと判断すべきタイミングといえます。高齢者は筋力や認知機能の低下によって転倒しやすく、骨折などの大きな怪我につながる恐れがあります。
また認知症の方が1人で外出した場合、事故に巻き込まれたり行方不明になってしまったりするリスクもあります。他人の目がないと安全に生活することが難しいと感じたら、スタッフが常駐する介護施設への入居も考えましょう。
親が施設入居を嫌がる理由とその対処法
内閣府が平成15年に実施した調査によると、自分に介護が必要になったら「特別養護老人ホームや老人保健施設などの介護保険施設に入所したい」と答えた方は全体の33.3%でした。
一方で、「可能な限り自宅で介護を受けたい」と答えた方は全体の44.7%にものぼりました。施設入居を嫌がる方は、どのような想いを抱えているのでしょうか。
住み慣れた自宅で暮らしたい
内閣府が平成15年に実施した調査によると、在宅介護を望む方のなかでもっとも多かったのは、「住み慣れた自宅で暮らし続けたい」といった理由でした。
施設での生活はイメージしづらく、知らないことに対する不安もあるでしょう。住み慣れた我が家であれば、安心して自分らしく生活できると考える方も少なくありません。
対処法
自宅以外の場でも楽しみが見つけられるようにサポートしましょう。介護施設で実施される地域のイベントやデイサービスなどを利用すれば、施設へのイメージを変えるきっかけにもなります。
また、生け花や囲碁、陶芸などのクラブ活動がさかんな介護施設もあります。ご本人の趣味と合う施設であれば、入居意欲が高まることも考えられます。
他人の世話になりたくない
介護が必要になると、状態によってはトイレや入浴などにも支援が必要です。「家族以外の世話になりたくない」と感じる方もいます。
また「介護は家族がするべき」といった価値観を持つ方もいます。
対処法
自宅で介護を続けたい気持ちはあるが、やむを得ず続けられないことを伝えましょう。また施設に入居することのメリットを説くことも重要です。
一部の有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などは、状態に応じて必要なサービスだけを選んで受けられます。本人の意思も尊重しつつ、このような施設もあることを伝えましょう。
他人との生活に不安がある
介護施設に対して自由がなく、スケジュール通りに動かなければいけないといったイメージをもつ方もいます。
対処法
本人と施設を探し、希望に沿える介護施設を探しましょう。多くの施設では明確なスケジュールが定められておらず、食事や入浴以外は自由に生活できます。
例えば、比較的費用が安い特別養護老人ホームでは、入居者の生活リズムを尊重する「ユニットケア」を導入している施設もあります。
また生活の自由度が高く、有料老人ホームのなかには、ジムや温泉などの設備が備えられている施設もあります。本人が生活を楽しんで生活できそうな施設を選び、提案してみましょう。
見捨てられるのではと不安を感じる
家族から施設入居を勧められると、家族から見捨てられるのではないかと不安になって入居を嫌がる方もいます。施設に入ったら、家族に会えなくなるといった不安もあるでしょう。
対処法
施設入居は、健康に長生きしてほしいからこその提案だと伝え、不安を取り除きましょう。また、入居後に家族ができることを伝えるのも大切です。
たとえば「週に1回は面会に行く」「年に1回は一緒に旅行に行く」など、本人も家族も無理なく叶えられるイベントを考えてみましょう。
親を施設に入れたことを後悔しないためには?
在宅介護の限界を感じる度合には個人差があります。だからこそ、親を施設に入れても「もっと頑張れたのではないか」と後悔するケースもあります。
入居後に後悔しないためにも、親と十分に対話してから施設入居を決めましょう。介護保険制度は社会全体で介護が必要な人を支えるための制度であり、家族の負担軽減も目的としています。
親の希望であっても、家族ができることには限りがあります。のちのち後悔しないように、家族ができることとできないことを明確にして負担にならない範囲で協力しましょう。
介護施設にかかる費用に不安があるときの4つの対応策
介護施設にかかる費用は、施設で生活する限り払い続けなければなりません。費用面に不安があるときは、次の4つの対応策を試しましょう。
- 公的施設から入居先を選ぶ
- 築年数が経っている施設を選ぶ
- 多床室がある施設を選ぶ
- 費用負担が軽くなる制度を活用する
それぞれ解説します。
公的施設から入居先を選ぶ
介護施設には公的施設と民間施設があります。費用が負担できるか不安な場合は、特別養護老人ホームなどの公的施設を選びましょう。
公的施設は初期費用がかからない施設が多く、月々の費用も民間施設と比べると抑えられます。しかし費用の安さから人気も高く、入居までの期間が長い施設もあるため注意しましょう。
築年数が経っている施設を選ぶ
一般的な不動産物件と同様、築年数が古い施設は費用が抑えられる傾向があります。
ただし、一部バリアフリー化されていないことで生活しづらく感じる可能性があります。築年数が経っている施設は、見学時に生活環境や設備を確認しましょう。
多床室がある施設を選ぶ
介護施設の部屋のタイプには、個室と多床室などがあります。多床室は1部屋を区切って複数人で使用するため、個室と比べると居住費が抑えられます。
たとえば特別養護老人ホームの場合、要介護5の方がユニット型個室を利用すると居住費は月々約6万円かかりますが、多床室であれば約2万5千円です。実際に見学して問題を感じなければ、費用が抑えられる多床室を選びましょう。
参考:厚生労働省|介護サービス情報公表システム サービスにかかる利用料
費用負担が軽くなる制度を活用する
介護施設にかかる費用は、制度を活用することで負担が軽くなる場合もあります。
特定入所者介護サービス費
特定入所者介護サービス費は、所得に応じて決められた負担限度額を超えた分の食費と居住費が払い戻される制度です。
高額介護サービス費
高額介護サービス費は、所得に応じて決められた上限額を超えた介護サービス費が払い戻される制度です。
高額医療・高額介護合算療養費制度
高額医療・高額介護合算療養費制度は、1年間に支払った医療保険と介護保険の合計が上限額を超えた場合に払い戻される制度です。
社会福祉法人による利用者負担軽減制度
社会福祉法人による利用者負担軽減制度は、市町村民税世帯非課税であって特に生計が困難であると市町村が認めた方が対象です。食費や居住費、介護保険の自己負担分の費用負担が軽減されます。
医療費控除
医療費控除は、支払った医療費が一定額以上だった場合に所得控除が受けられる制度です。
施設への入居についてよくある質問3つ
施設への入居についてよくある質問は次の3つです。
- 若年性認知症でも入居できる施設はありますか?
- 義母の施設入居を進める際の注意点はありますか?
- 施設入居を無理に進めるとどんなリスクがありますか?
それぞれの疑問を解消していきましょう。
質問1.若年性認知症でも入居できる施設はありますか?
若年性認知症の方の場合、40歳以上であれば介護保険を利用して施設に入居できます。
なかでもグループホーム(認知症対応型共同生活介護)は、認知症のケアに特化しています。5人~9人の少人数で生活し、必要な介護を受けながら本人の能力に応じた自立した生活を送ることを目的とした施設です。
質問2.義母の施設入居を進める際の注意点はありますか?
義母の施設入居を進める際は、義母の子供にあたる配偶者やその兄弟姉妹の協力を得ましょう。日頃から介護に関わっていないと、義母の状態や介護者の負担を理解してもらえない可能性があります。
理解を得ないまま入居の準備を進めると義母本人だけでなく、ほかの家族からも同意が得られないことも考えられます。施設入居を進めたい理由を説明し、入居前だけでなく入居後も協力してもらえるような関係を築きましょう。
質問3.施設入居を無理に進めるとどんなリスクがありますか?
本人の同意を得ずに無理やり入居させた場合、信頼関係を失う可能性があるでしょう。
また怒りやストレスを感じることで、入居後にトラブルを起こしたり認知症が悪化する恐れもあります。施設のスタッフやほかの入居者に危害を及ぼす、または及ぼす可能性が高い場合は、退去を迫られるケースもあります。
施設入居を無理に進めると今後の生活に悪影響を及ぼします。同意を得られなければ施設やケアマネージャーに相談するなど、抱え込まずに協力を仰ぎましょう。
まとめ
親を介護施設に入れる手順は、まず本人を含めた家族全員で話し合うことから始めます。希望条件を明確にして施設を探し、見学や体験入居をしたうえで施設を決めれば「納得できる介護施設」が選べます。
家族全員が納得して今後の生活を送るためにも、まずは話し合いから始めましょう。