「親の在宅介護で不穏の症状に悩まされている」
「不穏時はどんなことに気を付ければいいの?」
認知症の方を介護する方のなかには、このような疑問をお持ちの方も少なくないのではないでしょうか。
認知症の症状の1つでもある「不穏」は、適切に対応しなければ症状が悪化する恐れもあります。悪化すれば介護の負担は大きくなるため、適切な対応方法を学ぶ必要があるでしょう。
本記事では、不穏時の対応のポイントや場面別の具体的な対応方法を中心に解説します。
記事目次
認知症による不穏時の対応のポイント
認知症の方に不穏の症状が出ている場合、環境や不適切な介護が原因となっている可能性があります。不穏時の対応のポイントは次のとおりです。
- 安心できる環境を作る
- 信頼関係を築く
- 穏やかに安定した態度で接する
それぞれ解説します。
安心できる環境を作る
認知症の方は周囲の環境を認知する機能が低下するため、自分がいる場所が安全かどうかの判断が難しくなります。安心して過ごせる環境を作ることで、不穏の症状を和らげられるでしょう。
これまで過ごしてきた環境に近づけたり、馴染みのある家具や食器を使うのも有効です。また、日にちや時間がわかりづらいと混乱の原因になるため、カレンダーや時計などもご本人が認識しやすいものを使用しましょう。
信頼関係を築く
安心して生活してもらうためには、信頼関係を築くのも大切です。認知症を患うと、これまで出来たことが出来なくなったり手順がわからなくなったりする場面もあります。
そのような場面で周囲の人から怒られ続けると、恐怖心やストレスを抱えてしまい、不穏をはじめとした問題行動を引き起こすケースもあります。
親子であれば、認知症を患った親の現状を受け入れられず、戸惑ってしまう方も少なくありません。しかし、信頼関係があって本人が助けを求められる環境であれば、不穏の症状は和らぐ可能性があるでしょう。
穏やかに安定した態度で接する
不穏時でも、穏やかな態度で接するように心掛けましょう。
在宅介護を続けるなかで不穏が続けば、家族の精神的な負担も大きくなります。しかし対応を間違えれば、さらに問題行動がエスカレートする場合もあります。
認知症を患うと出来事自体は忘れてしまいますが、その時に感じた「怒られた」などの感情は残ります。よい感情が残れば信頼関係の構築にもつながるため、笑顔を心掛けて安定した態度で対応しましょう。
そもそも不穏の原因は?
不穏は、認知症の周辺症状(BPSD)の1つです。認知症の症状は「中核症状」と「周辺症状」に分類されます。
中核症状は脳の障害によって起こる認知機能障害であり、おもに次のような種類があります。
- 記憶障害
- 見当識障害
- 実行機能障害
- 言語障害
具体的には、「日付がわからない」「新しい物事が覚えられない」などの症状があります。周辺症状は、中核症状と環境要因・心理要因・身体要因が組み合わさって現れる症状です。
本人の性格や生活環境、周囲の人との関係などによって症状の現れ方は異なり、おもに次のような種類があります。
- 不穏
- 暴言・暴力
- 徘徊
- 不潔行為
- 幻聴・幻視
- 抑うつ
周辺症状が悪化すると、介護にかかる負担も大きくなります。そのため不穏時の対応だけでなく、日常的な接し方にも注意する必要があるといえるでしょう。
また不穏は認知症だけでなく、薬剤の副作用や離脱症状、アルコールの離脱症状が原因の場合もあります。必要に応じて主治医に相談しましょう。
不穏時の具体的な対応方法
周辺症状の悪化を防ぐには適切な対応が重要ですが、いざその場面になると対応に困るケースも少なくありません。介護者を悩ませる場面には、次のようなものがあります。
- 大声で攻撃的な発言がある
- 見えないものに話しかけている
- 徘徊をする
- 物を盗られたと訴える
- 家にいても「家に帰る」と言う
場面ごとに、具体的な対応方法を解説します。
大声で攻撃的な発言がある
被介護者が感情的になって攻撃的な発言をすれば、介護者自身が身の危険を感じることもあるでしょう。大声で攻撃的な発言をする場合、次の対応を試しましょう。
- 介護者を変える
- 本人が落ち着く場所へ移動する
- 本人の体調に異変がないか確認する
- 本人の話をよく聞く
自分の気持ちや状態を上手く言葉にできないもどかしさから、イライラや不安で感情的になる場面もあります。相手の気持ちに寄り添って話を聞き、いつもと変わった部分はないかも観察しましょう。
見えないものに話しかけている
実際にないものが見えるのは「幻視」に含まれ、人や動物、虫などが見える場合もあります。見えないものに話しかける場合、次の対応を試しましょう。
- 本人の話を聞く
- 危険ではないと伝える
- 生活環境に配慮する
本人に見えているものを否定せず、話を聞きながら危険はないことを伝えましょう。本人の不安を取り除き、安心できる環境を作るのが優先です。
また、幻視は暗い場所で現れる傾向があるため、証明や家具の配置などにも注意しましょう。食事で柄がある食器を使うと、虫に見えてしまうケースもあります。食器など日常的に使うものにも配慮しましょう。
徘徊をする
徘徊は本人が安心できる場所を探すための行動であり、本人なりの目的があります。徘徊する場合、次の対応を試しましょう。
- 関心をそらすための話題を振る
- 徘徊に付き添う
- 落ち着ける環境を作る
徘徊をする原因として、「ここは自分の居場所じゃない」と感じている可能性があります。そんなときは話を聞きながらほかの話題を振ったり、お茶や食事などで関心を逸らしましょう。また徘徊に付き添い、様子を見て帰宅を促すのも効果的です。
無理に家に閉じ込めるなどの行為は、さらに不穏になってしまう可能性があります。本人の意思を可能な限り尊重して対応しましょう。
物を盗られたと訴える
記憶障害があると、大切な物を置いた場所を思い出せずに「盗まれた!」と訴えるケースもあります。物を盗られたと訴えた場合、次の対応を試しましょう。
- 話を否定せず共感する
- 失くした物を本人が見つけられるようにする
もの取られ妄想は、身近な人に強く出る傾向があります。普段介護しているからこそ、家族が憤りを感じるのは無理もありません。
しかし話を否定したり家族が探し物を見つけると、「盗んだからすぐに見つけられたんだ」などと思い込むケースもあります。本人の話は否定せずに共感し、失くした物は本人が見つけられるように上手く誘導しましょう。
探し物が見当たらない場合は、話題をそれとなく逸らして関心をほかのことに向けるようにしましょう。
家にいても「家に帰る」と言う
記憶障害や見当識障害によって自分が今いる場所がわからず、家にいても「帰ります」と落ち着かなくなるケースもあります。
「夕暮れ症候群」という言葉もあるとおり、特に夕方になると「夕食の時間なのにいつまでも居座るのは悪い」「帰って食事の準備をしないと」などと考え、家に帰らなければと不安になるのです。
家にいても帰ろうとする場合、次の対応を試しましょう
- 声掛けを工夫する
- 一緒に散歩する
「ここは自分の家ではない」と認識しているため、本人の立場に立って声掛けを工夫してみましょう。
たとえば「今日はもう遅いので、今晩だけ泊まっていきませんか?」「明日には家族の方が迎えに来ますよ」など、本人の希望に寄り添いつつ、協力をお願いするように声掛けしてみましょう。
ほかにも付き添って一緒に散歩し、様子を見て自宅へ向かう方法もあります。むやみに行動を制止せず、本人が感じている不安をイメージしながら対応しましょう。
認知症でも入れる介護施設は?
認知症の方に対応できる介護施設は少なくありません。具体的には、次のような施設があります。
- グループホーム
- 有料老人ホーム
- 特別養護老人ホーム
それぞれの特徴を解説します。
グループホーム
グループホームは、認知症でなければ入居できません。そのため、スタッフも認知症のケアに特化しており、適切な介護が受けられます。
少人数で共同生活を送るため環境の変化も少なく、認知症の方でも安心して生活できるでしょう。
有料老人ホーム
認知症の方が入居できるのは、住宅型有料老人ホームか介護付き有料老人ホームのいずれかです。
住宅型有料老人ホームは、基本的に生活支援サービスを提供しています。しかし介護が必要になった場合は、状態に応じたサービスが受けられるのが特徴です。
介護付き有料老人ホームはスタッフが24時間常駐しているため、重度の認知症の方でも安心して生活できます。
有料老人ホームには民間企業が参入しているため、施設ごとにさまざまな特色があります。サービス内容を比較して選ぶとよいでしょう。
特別養護老人ホーム
特別養護老人ホームは、原則として要介護3以上でなければ入居できません。そのため、日常的に対応するスタッフの介護技術は高く、身体介助などが必要でも安心です。
有料老人ホームなどと比べると費用が抑えられる施設も多く、看取りを行う施設も少なくありません。終身で利用したい場合は、特別養護老人ホームへの入居も検討しましょう。
まとめ
不穏時の対応を間違えると、認知症の症状を悪化させる恐れもあります。しかし、ご本人との関係性を大切にして対応すれば、症状が軽減する可能性もあるでしょう。
不穏時の対応のポイントを理解し、在宅介護の負担軽減に役立てましょう。