認知症患者の看護計画の書き方は?認知症の症状・種類まで解説

認知症患者の看護計画の書き方は?認知症の症状・種類まで解説

「認知症の方の看護計画の立て方がわからない」
「認知症の症状を知って、看護計画立案に役立てたい」

といった悩みは、医療現場で働く看護師の方に起きがちです。

認知症には、多くの症状があります。対象者の認知症の症状・種類に応じて看護計画を作成すれば、目標が達成できる計画の立案が可能となります。

本記事では「認知症患者の看護計画の書き方」「認知症の症状と種類」を中心に解説します。

認知症患者の看護計画の書き方

認知症患者の看護計画の書き方

看護計画は、看護の対象者が抱える問題の解決を目的として、個別の看護目標を達成するための計画を記載するものです。

認知症には、アルツハイマー型認知症をはじめとしたさまざまな種類があります。加えて症状に個人差があるため、対象者の認知症の種類・症状に応じて看護計画を作成する必要があります。

ここでは「認知症による見当識障害がある患者」を対象者として、以下の看護計画の項目ごとに記載ポイントと具体例を紹介します。

  • 看護問題(看護診断)
  • 看護目標
  • 観察計画(OP)
  • 援助計画(TP)
  • 教育計画(EP)

看護問題(看護診断)

看護問題(看護診断)では、対象者の情報をアセスメントしたうえで「看護で解決すべき問題」を明確にします。

今回は「認知症による見当識障害がある患者」が対象となるため、看護問題は「認知症による見当識障害がある」です。

看護目標

看護目標は、看護計画の実施によって「対象者にどのようになってほしいのか」を考えて目標を記載する項目です。実現可能な範囲内で設定しましょう。

対象者やその家族とのコミュニケーションを通じて希望を確認し、共に看護目標を設定します。認知症の方の状態によっては、本人の希望が確認できないケースもあります。しかし、看護師の考えのみで目標を決めないように注意しましょう。

今回は「対象者が不安を感じずに生活できる」とします。対象者の希望に応じて決めましょう。

観察計画(OP)

観察記録(OP)は、看護師の目や鼻、耳、指で確認できる対象者の情報を記載する項目です。認知症の方の場合、おもに以下の情報を収集して記載しましょう。

  • 客観的な指標の推移(長谷川式認知症スケール(HDS-R)など)
  • 意識レベルの推移や日内変動の有無
  • 自覚症状の有無・程度
  • 視覚障害などの有無・程度
  • 食事・水分の摂取状況
  • 排泄状況
  • 夜間の睡眠状況
  • 薬の内服状況や副作用の有無・程度
  • 血液検査のデータ
  • 頭部CTやMRIなどの画像データ

援助計画(TP)

援助計画(TP)は、対象者の看護問題の解決に必要な看護ケアを記載する項目です。今回の看護問題は「認知症による見当識障害がある」のため、以下のような援助計画を策定します。

  • 時計などを活用して時間のリズムを整える
  • ADLに合わせて環境を整える
  • 話を傾聴して言動を理解する
  • 必要に応じて社会的資源の導入を検討
  • 医師の指示に基づいた薬剤の使用

見当識障害に対して「どのような看護ケアが有効か」を検討したうえで記載しましょう。

教育計画(EP)

教育計画(EP)は、看護目標を達成するために「対象者が自身の健康状態を認識できる状態」を目指すのに必要な指導・教育に関して記載する項目です。

今回の看護目標は「対象者が不安を感じずに生活できる」のため、以下のような教育計画を策定します。

  • 必要に応じて時間・場所を伝える
  • 不安や疑問に感じることは相談してもらうように説明する
  • 入院の必要性を説明する(入院が必要な場合)

場合によっては、家族への指導も行います。対象者の状態や目標応じて、必要な教育計画を立てましょう。

ケース別の看護計画の例文

ケース別の看護計画の例文

ここからは、以下のケース別に看護計画の具体例を紹介します。

  • 転倒転落のリスクがあるケース
  • 初期の認知症と診断されたケース

転倒転落のリスクがあるケース

対象者に転倒転落のリスクがある場合「安全に療養生活を送ること」を目指して看護計画を作成します。以下の表で項目ごとの具体例を紹介します。

項目具体例
看護問題(看護診断)ADL低下による転倒転落リスク
看護目標転倒転落せずに療養生活が送れる
観察計画(OP)・客観的な指標の推移(長谷川式認知症スケール(HDS-R)など)
・意識レベルの推移や日内変動の有無
・視覚障害などの有無、程度
・認知機能の障害の有無、程度
・歩行や立ち上がりの状態
・精神・身体状況(拘縮の状態など)
・疼痛の有無、程度
・生活環境(ベッドの高さなど)
・着用している衣類、靴
・夜間の睡眠状況
・薬の内服状況や副作用の有無、程度
・血液検査のデータ
援助計画(TP)・歩行介助を行う
・栄養状態を管理する
・身体機能訓練を行う
・ベッドの高さを調整する
・夜間は足元を照らすライトを使用する
教育計画(EP)・ふらつきや疼痛がある場合は無理して歩行しないように説明する
・衣類、靴は体に合ったものを着用するように説明する
・生活環境を整備する重要性を伝える

初期の認知症と診断されたケース

対象者が初期の認知症と診断されて不安を感じている場合「不安を取り除くこと」を目指して看護計画を作成します。項目ごとの具体例は以下のとおりです。

項目具体例
看護問題(看護診断)認知症や今後の生活に関して不安がある
看護目標認知症や今後の生活に関係する情報が提供され、不安が軽減できる
観察計画(OP)・客観的な指標の推移(長谷川式認知症スケール(HDS-R)など)
・心理状態
・対象者の認知症に対する理解、認識
・症状の有無、程度
・日中の活動状況
・夜間の睡眠状況
・食事、水分の摂取状況
援助計画(TP)・ADLに合わせた日常生活支援を実施する
・対象者が自身の気持ちを表出できる環境を作る
・必要な社会的資源を検討する
・認知症に対する家族の不安、気持ちを確認する
・対象者とその家族の意思が共有できる場を設ける
教育計画(EP)・認知症の今後の経過を説明する
・利用可能な社会的資源を説明する
・わからないことや不安に感じることを伝えてもらうように説明する

紹介したケースごとの具体例を参考に、対象者の個別性を考慮した看護計画を作成しましょう。

認知症の症状

認知症の症状

認知症の症状に対応した看護計画を作成するには、認知症への理解を深める必要があります。認知症は完治させる治療法が解明されておらず、看護ケアの重要性が高い症状です。

認知症の症状は、大きく分けて「中核症状」「BPSD(行動・心理症状)」に分類されます。

中核症状

認知症の中核症状は、脳の神経細胞がダメージを負うことで引き起こされます。症状は大きく分けて以下の4つです。

  • 記憶障害
  • 見当識障害
  • 理解・判断力の障害
  • 実行機能障害

記憶障害は、認知症の初期段階から現れやすいのが特徴です。情報や出来事が記憶できなくなり、直前の出来事が思い出せなくなります。具体的には「何度も同じ内容を話す」「人との約束を忘れる」といった症状があります。

見当識障害も記憶障害と同様、認知症の初期段階から現れやすい障害です。自分が置かれている状況を正しく認識できなくなり、進行すると「時間」「場所」「人」の順番でわからなくなる傾向があります。具体的には「自分がいる場所がわからない」「家族のことがわからない」といった症状があります。

理解・判断力の障害は、考えるスピードが遅くなって判断に支障が出る障害です。1度に処理できる情報量が減り、複雑な内容を理解するのが難しくなります。具体的には「相手の話が理解できない」「複数の出来事が重なると混乱する」といった症状があります。

実行機能障害は、目的に対して計画を立てて物事を実行するのが困難になる障害です。予想外の出来事に対して対処するのも難しくなります。具体的には「家事が段取りよく進められない」「電化製品の使い方がわからない」といった症状があります。

BPSD(行動・心理症状)

BPSD(行動・心理症状)「中核症状」と「本人の心身状態や置かれている状況」がもととなって現れる精神・行動症状です。症状は多彩であり、現れる症状にも個人差があります。

BPSDには以下のような症状があります。

精神症状行動症状
・不安、うつ
・無関心
・妄想
・幻覚(幻聴・幻視)
・誤認
・徘徊
・多動
・不潔行為
・収集癖
・暴言、暴力

BPSDは、認知症がある方の「状況がわからないことに対する不安」や「能力が失われていく喪失感」などが要因となります。ほかにも「介助者の不適切なケア」「BPSDの悪化要因となり得る薬剤の投与」「入院などの環境変化」が要因となるケースもあります。

中核症状の改善は難しい一方で、BPSDは適切なケアによって症状の度合いの軽減が可能です。例えば、入院によってBPSDを発症した場合は「本人が生活していた環境に近づける」「会話ができる仲間作り」といった対応をするなど、悪化要因に応じた適切な対応が重要となります。

認知症の種類

認知症の種類

認知症を引き起す原因はさまざまであり、認知症の種類は原因によって分類されます。認知症の代表的な種類は「アルツハイマー型認知症」「レビー小体型認知症」「脳血管性認知症」の3つです。

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は、最も患者数が多い認知症です。脳にアミロイドβやリン酸化タウというタンパク質がたまり、脳神経細胞がダメージを受けて発症します。

代表的な症状は「記憶障害」や「実行機能障害」などであり、記憶障害から始まってほかの認知機能も徐々に低下します。症状が緩やかに進行する認知症です。

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は脳にαシヌクレインというタンパク質がたまり、神経細胞がダメージを受けて発症する認知症です。

記憶障害をはじめとした認知機能障害の程度が変動しやすく、幻視や妄想、自律神経症状などが見られやすいのが特徴です。加えて「手足の震え」や「筋肉が硬くなる」といったパーキンソン症状を伴うケースもあります。

調子がよいときと悪いときを繰り返し、急激に進行するケースもあります。

脳血管性認知症

脳血管性認知症は脳梗塞や脳出血が原因で脳の血流が阻害された結果、脳細胞がダメージを受けて発症する認知症です。

脳がダメージを受けた場所によって症状が異なり、認知機能障害を主としてうつや情動失禁、人格変化、排尿障害などの症状があります。

急に発症し、段階的に進行するケースが多いです。脳がダメージを受けた場所によって症状・経過の個人差が大きいのが特徴です。

まとめ

まとめ

認知症の症状には個人差があります。そのため、認知症の種類は同じであっても症状がまるで違うケースも多々あるでしょう。認知症の症状・種類について理解を深めれば観察計画のみならず、具体的な援助計画や教育計画の立案に役立ちます。

本記事で紹介した認知症患者の看護計画の書き方を参考に、具体性のある計画を立案しましょう

この記事を書いた人

かいごマガジン編集部

かいごマガジン編集部です。
介護の専門的な情報をどこよりもわかりやすく紹介していきます。
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