「認知症高齢者の日常生活自立度はどんな基準で判定されるの?」
「調査を受ける際に家族が意識すべきポイントが知りたい」
といった疑問は、認知症がある家族をもつ方に起きがちです。
認知症高齢者の日常生活自立度は、ランクⅠ~Mに区分されます。被介護者の日常生活での自立度合いで決定し、要介護認定や医療・介護を受ける場合に役立てられます。
本記事では「認知症高齢者の日常生活自立度の判定基準」と「調査を受ける際の3つのポイント」を中心に解説します。
記事目次
認知症高齢者の日常生活自立度とは?
認知症高齢者の日常生活自立度とは、高齢者の認知症の程度を踏まえて「日常生活でどの程度自立しているか」を判断する指標です。おもに認定調査の場で活用されます。
認知症になった場合、記憶力や理解力、判断力などの認知機能が低下します。状態によっては日常生活を送るのに支障をきたすため、周囲のサポートが必要です。
介護保険制度では、介護が必要な方が適切なサービスが受けられるように費用を給付します。しかし制度を利用するには、要介護認定調査を受けて要支援1・2または要介護1~5に認定される必要があります。
認定調査を実施する調査員は日常生活自立度の基準をもとに、認知症がある方の日常生活での自立度合いを判断し、要介護認定の判断材料とします。
そのため日常生活自立度は、認知症の方が「どの程度のサポートが必要か」を判断する重要な指標です。
認知症高齢者の日常生活自立度の判定基準
認知症高齢者の日常生活自立度は、以下の基準に基づいて判断されます。
ランク | 判断基準 | 見られる症状・行動の例 |
Ⅰ | 何らかの認知症を有するが、日常生活は家庭内及び社会的にほぼ自立している | |
Ⅱ | 日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが多少見られても、誰かが注意していれば自立できる | |
Ⅱa | 家庭外で上記Ⅱの状態がみられる | ・たびたび道に迷う ・それまでできたことにミスが目立つ (買い物や金銭管理など) |
Ⅱb | 家庭内でも上記Ⅱの状態が見られる | ・服薬管理ができない ・1人での留守番ができない (電話の応対や訪問者の対応など) |
Ⅲ | 日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが見られ、介護を必要とする | ・着替え、食事、排便、排尿に時間がかかる・上手にできない ・やたらに物を口に入れる ・物を拾い集める ・徘徊失禁大声・奇声をあげる ・火の不始末 ・不潔行為 ・性的異常行為など |
Ⅲa | 日中を中心として上記Ⅲの状態が見られる | |
Ⅲb | 夜間を中心として上記Ⅲの状態が見られる | |
Ⅳ | 日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁に見られ、常に介護を必要とする | ランクⅢに同じ |
M | 著しい精神症状や問題行動あるいは重篤な身体疾患が見られ、専門医療を必要とする | ・精神症状が続く(せん妄、妄想、興奮、自傷・他害など) ・精神症状に起因する問題行動が続く |
出典:「要介護認定 認定調査員テキスト2009 改訂版」より一部改変(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000077237.pdf(20231118)
なお、ランクMで見られる症状・行動の例で挙げられているせん妄や妄想、興奮は、ランクⅠ〜Ⅳの方にも起こる可能性があります。
ここからはランクごとの状態と、利用を検討すべき介護サービスを解説します。
ランクⅠ
ランクⅠは認知症を発症しているものの、家庭内および社会的に自立した生活が送れている状態です。
日々の生活で困る場面はほとんどなく、1人暮らしが可能です。認知症の進行防止や症状の改善、本人が抱える悩み・不安を軽減できるような関わり方を重視しましょう。
ランクⅡa・Ⅱb
ランクⅡでは、生活に支障がある症状や行動、意思疎通の困難さが見られ始めます。周囲の見守りやサポートがあれば、自立した生活を送ることが可能です。しかし、環境や状態によっては1人暮らしが難しいケースもあります。
生活に支障をきたす症状が見られるのが「家庭外のみ」か「家庭内外の両方」かによって、ランクⅡaとⅡbに区分されます。
ランクⅡaに該当するのは「外出時に道に迷う」「これまで問題なく行えていた金銭管理にミスが目立つ」などの行動がある場合です。
一方、ランクⅡbに該当するのは「服薬管理ができない」「訪問者への対応が難しく1人で留守番できない」などの行動です。
「1人暮らしの方」や「日中は家族が留守のため1人で過ごす方」は、訪問介護やデイサービスの利用により、安全に在宅生活を継続することが可能となります。
ランクⅢa・Ⅲb
ランクⅢでは、ランクⅡと比べて生活に支障がある症状や行動、意思疎通の困難さが増すため介護が必要です。介護を受けながら在宅生活を送るのは可能な一方で、1人暮らしは困難な段階です。
具体的には「着替えや食事などがスムーズにできない」「大声や奇声をあげる」「食べられない物を口に入れる」などの症状・行動があります。
ランクⅢaの場合、上記の症状などが日中を中心に見られます。ランクⅢbの場合は、夜間を中心に見られます。日中と夜間で判定が分かれるのは、夜間の方が介護者の負担が大きくなるのが理由です。
目が離せない時間が増えて介助量も増えるため、介護者は「睡眠時間が確保できない」「自分の時間が取れない」などの課題が生じ、負担が大きくなる傾向があります。状況に応じてデイサービスやショートステイ、夜間も含めた訪問介護を利用し、在宅介護による共倒れのリスクを回避しましょう。
ランクⅣ
ランクⅣでは、ランクⅢの症状・行動の頻度が増して常に介護が必要です。
介助量の増加により家族の生活にも影響を及ぼすため、在宅生活を継続する場合は訪問介護やデイサービス、ショートステイなどを有効活用する必要があります。
ただし介護サービスを利用したとしても、家族の精神的・肉体的な負担は増える傾向があります。在宅介護が難しい場合は、特別養護老人ホームやグループホームなどへの入居も検討しましょう。
ランクM
ランクMは、著しい精神症状や重篤な身体疾患があるため、専門的な治療が必要です。例えばせん妄や妄想、興奮、自傷他害などの精神症状や、精神症状が原因で起こる問題行動が継続している状態が該当します。
症状によっては、精神科のある病院や認知症専門棟がある老人保健施設などで治療を受ける必要があります。精神症状や暴言、暴力、異食などの周辺症状がある場合は、医療機関への受診を検討しましょう。
認知症高齢者の日常生活自立度ランク別の利用サービスの割合
認知症高齢者の日常生活自立度のⅠ~Mのランクによって、介護サービスの利用割合が異なります。
平成27年に厚生労働省が調査した結果によると、ランクごとの利用サービスは以下のとおりです。
出典:「平成27年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査」(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000126199.pdf(20231118)
特別養護老人ホームをはじめとした施設系サービスは、Ⅲ以上の方が多い結果となりました。認知症高齢者グループホームなどの居住系はⅡbとⅢaが多く、デイサービスなどの居宅系は自立~Ⅲaまでが約9割を占めました。
このように、認知症の症状が重くなると施設入居を選択するケースは多い傾向があります。症状の度合いに応じて適切なサービスを利用し、家族と被介護者が安心して生活できる環境を整えましょう。
認知症高齢者の日常生活自立度の調査を受ける際の3つのポイント
認知症高齢者の日常生活自立度は、認定調査の場で認定を受ける本人や家族から調査員が聞き取った情報をもとに判定されます。認定を受ける本人は、見知らぬ人に対して自分自身に関する話をするため、緊張や不信感によって事実と異なる返答をする可能性があります。
また、普段の生活では受け答えに問題がある場合でも、調査員の前では受け答えができるケースもあります。調査の場で状態を正確に伝えるために、家族が認定調査に同席する際は以下の3つのポイントを意識しましょう。
- 事前に状態を理解しておく
- 調査項目に含まれない症状がある場合は伝える
- 直近1か月の状態の変化を記録しておく
事前に状態を理解しておく
調査に立ち会う場合は、被介護者の状態をあらかじめ理解しておきましょう。
例えば家族と被介護者が疎遠・不仲なケースでは、状態を十分に理解できていない可能性があります。状態を正確に伝えられなければ、実際の状態よりも軽く判定され、必要な介護サービスが受けられないリスクがあります。
そのため被介護者の日頃の状態を把握し、本人が伝えられない部分は家族が補足して伝えましょう。
調査項目に含まれない症状がある場合は伝える
認定調査では「現在の季節を理解しているか」「ひどい物忘れがあるか」といった認知症に関する調査項目があります。しかし、以下の症状は項目に含まれていません。
症状 | 具体例 |
幻視 | 実際には存在しない人物や動物、物などが見える |
幻聴 | 実際には聞こえない音が聞こえる |
暴言・暴力 | 介護者をたたく |
不潔行為 | 排泄物を素手で触る |
異食行動 | 食べ物以外を口に入れる |
上記の症状がある場合、介護者の負担は多くなる傾向があります。忘れずに調査員に伝えましょう。
直近1か月の状態の変化を記録しておく
認知症の症状は変動するため、調査時は落ち着いていても「2週間前は落ち着きがなくて常に見守りが必要だった」といったケースもあります。そのため、直近1か月の状態を記録しておきましょう。
具体的には、日時やそのときの行動、頻度などを記録します。例えば、被介護者が無断で外出して家に帰れなくなるケースが多い場合「いないことに気付いた日時」や「自宅からどのくらい離れた距離で発見したか」「本人の状態(けがの有無など)」といった内容を記録します。
日常生活自立度は、症状の有無や頻度、時間帯などをもとに判定します。日常生活で困っている症状・行動がある場合は、判定基準を意識して記録し、漏れなく調査員に伝えましょう。
認知症高齢者の日常生活自立度に関してよくある3つの質問
認知症高齢者の日常生活自立度に関してよくある質問は次の3つです。
- 活用されるのはどのような場面ですか?
- 評価するのは誰ですか?
- 障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)との違いは?
質問1.活用されるのはどのような場面ですか?
認知症高齢者の日常生活自立度は「医療現場」や「介護現場」でも活用されています。
医療現場では「看護計画」や「リハビリテーション計画」、介護現場では「ケアプラン」や「通所介護計画」「個別機能訓練計画」に記載されており、患者・利用者の基本情報を伝える役割があります。
また、介護保険の申請時にかかりつけ医に記入してもらう「主治医意見書」にも記載されます。医療・介護の現場で必要なサポートを受けるのに欠かせない指標です。
質問2.評価するのは誰ですか?
自宅で生活している場合は、認定調査に立ち会った調査員や医師が聞き取り内容をもとに評価します。入院中に介護保険を申請した場合は、医師が看護師や介護士から聞き取った情報を参考にして評価します。
障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)との違いは?
障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)とは、なんらかの障害を持つ高齢者が日常生活で「どのくらいベッドから離れて生活しているか」を判断する指標です。
被介護者の状態に応じて「生活自立」のランクJ「準寝たきり」のランクA「寝たきり」のランクB・Cに区分されます。例えば「介助により車椅子に移動する」「食事や排泄はベッドから離れて行う」といったケースでは「寝たきり」のランクBに判定される可能性が高いです。
「障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)」は、身体機能低下による生活への影響を評価する一方で「認知症高齢者の日常生活自立度」は、認知症による生活への影響にフォーカスして評価します。
障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)は、認定調査や主治医意見書、医療・介護現場での書類作成に役立てられます。そのため、認知症高齢者の日常生活自立度と活用場面に差はありません。
まとめ
認知症がある方の状態は一定の指標に基づいて評価し、生活への影響を判断します。レベルによっては介助量が増えるため、家族だけのサポートでは在宅生活の継続が難しくなる可能性があります。
認知症高齢者の日常生活自立度の判定基準を理解し、被介護者の状態に応じて「在宅介護サービスの利用」や「施設への入居」を検討しましょう。
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