— 95 —寿で暮らす人々あれこれなどで活気に溢れる。新米の彼は職安広場に立った。やがて、冷凍倉庫、道路舗装、港の労働、鉄筋組み立て、土工、トラックの上乗りなどありとあらゆる日雇に出た。その間、寿で暮らす人の写真を撮ろうと企画を温めていた。いろんな写真を撮ったが、どれも「これじゃない」というものばかりだったという。このままでは日雇で一生終わりという恐怖感とそれでもいいかという思いを抱えながら日雇いの仕事を続けていた。ある時、カメラを首から提げて歩いていた時、老人から「写真を撮ってくれ」と頼まれ老人の部屋で撮った。しばらくして、老人から部屋に誘われた。渡した写真が壁に貼られていた。老人は、写真を指しながら「お前に撮ってもらった写真だ。これがあるからいつ死んでもいい」と言ったという。彼の短くはないカメラマン人生でこんな言葉をかけられたのは初めてで、これまでの生活や価値観をひっくり返されるほどの衝撃を受けたという。以後、彼は写真を「撮ろう」とすることはやめたという。「羅漢たち」の構想が決まった一枚
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