寿で暮す人々あれこれ
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— 88 —言われる必然性はないので、相手は誰でもよかったのかもしれない。だが、なにを言っているのかよく聞き取れない。話の最後に「トホホ…」と僕には聞えるのがなんとも愛嬌というか、切ないというか…。弟さんご夫婦に連絡をしなければならないことがあった。いつもは聞き流していたが何となく心が動いたのだった。弟さんの奥さんは、穏やかに淡々と話してくれたことが印象に残る。「お酒癖が悪くて、よく家にきてはお金をせびられました。借金の清算も数知れず…。2度ほど夜逃げ同然に引っ越しました。家も二軒ほどつぶされました。今は、静かに暮らしているのでそっとしておいてください」と、亀さんを罵倒するでもなく静かに話す様子は優しさにあふれていた。亀さんにそのことを伝えると「トホホ…」と声を出した。手で顔を撫で回して涙だかよだれかわからない濡れた顔をくしゃくしゃにして「…弟の家の柱を鋸でぶった切ってしまったこともあったんだよ…」とぶつぶつとつぶやいていた。老人クラブの人たち (その8) ─ 右近さんのこと長身でやせた姿は鶴を連想させる。東京の山谷で長く「広覆の家」という運動を提唱し活動をしてきた人である。中国の独特の建築物を指す名称で、そこではみな対等の生活を目指していたといわれる。自分が好きだからしていると失敗や成功など気にしていないのびやかな様子だった。僕は運動の中身はほとんど知らない。時々、寿の友達に会いに来て、職安広場の路上でゴロリと寝入っていることがあった。自由な人だ。当センターの相談室にも寄っていくことがあった。実現はしなかったが、以前「ドヤ街」から社会に向けて様々な出来事を発信する便りを発行しよう、と語り合ったことがあった。

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