— 86 —老人クラブの人たち (その5) ─ 沼尻与作さんのことリヤカーをつけた自転車を引っ張って街を回っている。どういうわけか、すれ違いざまにののしるような言葉を投げつける。意味がよく聞き取れないので、はじめてのときは、なんだ、何だときょろきょろ見回し驚き、振り返って見つめたものだ。よくこのスタイルでこれまで生きてこられたものとある意味感心する。でも、日々の経過の中で落ち着いて眺めていると、どこか愛嬌があって憎めないところがある。歯がなくて唇がへこんで顔がひしゃげて見える。足が見事なくらいのO脚で足裏の内側が地面についていないようだ。歩きづらいだろう…。職業からきたのかなあと思うが、声をかけると叱られそうな気がして今日まで聞けないでいる。一度声をかけたことがある。じろりと睨まれただけで見事に無視された。沼尻さんにとって僕は付き合うに足りない人間だったのだろうか。ご縁がないのは仕方ないかなとあきらめた。だが残念。どんな人生を送ってきた方だろう。老人クラブの人たち (その6) ─ 小野寺夫婦のこと自己主張のはっきりとしたおばあちゃん。話をするとはきはきとテンポよく進行する。結構な皮肉も交じることがありこちらが戸惑っていると「あら、洒落もわかんねーのか」とあっさり話の矛先を変える。穏やかで人の好い気の弱そうなおじいちゃんといいコンビ。黙って聞いていると漫才のコンビのよう。歯切れ良いおばあちゃんの言葉に、おじいちゃんはのんびり答えている。時々ピシャッとおばあちゃんをたしなめる。当センターの老人会食に夫婦でよくやってきた。
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