寿で暮す人々あれこれ
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— 81 —寿で暮らす人々あれこれ儀に来られた三女の方は、スタントウーマンとして溌剌と働いていている活発な方でした。会場となった寿生活館3階の会議室一杯に、成瀬さんの遺品が並べられた。成瀬さんが卒業した大学の同人誌に寄稿したライフワークにしていたという楠正成に関する論文も飾られた。お部屋の片隅に積んであった書籍の中から見つけられたものだった。親子は、それぞれの遺品をひとつひとつ丁寧に見ていた。親子が何よりも驚いたのは、普通の葬儀とおよそ違う集いのような雰囲気の会場に、寿の多くの人々が親しげに参加していた様子だった。奥様や三女の話によると、成瀬さんは本当にある日突然に姿を消してしまい、以来、全く音信はなかったのだという。奥様は、娘三人を育てるのに懸命で成瀬さんのことを考える余裕などなかった。うらみもなかったという。夫が姿を消してから今日までの生活の様子がわかったことをとても喜んでおられた。感慨もひとしおのようだった。奥様によると「成瀬は正義感が強い人で、いつも港湾で働く人の貧しさと厳しさを気にして話題にして心にかけていた」と言う。僕は、成瀬さんから家をでた動機やらをそれとなく聞いていたけれど、奥様のお話をうかがって改めて成瀬さんの人となりをかみしめた。寿で亡くなった方々の親族が葬儀に参加することはきわめて少ない。成瀬さんの奥様と娘さんからは、夫を、父を敬愛する思いが率直に伝わってきた。成瀬さんの壮烈と形容できる人生と好対照をなすような、奥様の物静かな人を包み込むような優しい人柄が印象的だった。家族としての多難な時期に別々の人生を過ごしたけれど、寿の葬儀の場で、その空白を少しでも埋めることが出来たのではないかと思われた。お幸せなご夫婦ではないかとしみじみと思った。成瀬さんの遺骨は寿にある益牧師の教会の共同墓地に安置された。

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