寿で暮す人々あれこれ
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— 73 —寿で暮らす人々あれこれしく飾られている、自ら部屋はジェット機が墜落したような状況よ、という方もいる。二人とも親友である。個人の間でなら自由な意見交換で済むが、組織を背景に整理整頓という意見が強ければたちまち暮らしにくくなるのではないか。老人クラブは時の経過とともに新しい仲間も増え、鬼籍に入るメンバーも多くなっていく。僕にとって寂しくつらいことである。トラブルは今も変らずに続いている。「それくらいいいじゃないか」トラブルも老人クラブにとって大事な潤いでもあるかもしれないと思うこの頃である。死して安らか(その1) ─ Kさんのこと寿で接してきた方々のなかに死して初めて安らか…。と思えるひとが何人かいらした。Kさんはその一人と僕は思っている。彼は、自分のことより仲間の問題解決に懸命だった。それで自分の生活に支障が生ずることもあった。それは、自分の問題には向き合えないが人の問題には懸命になれるということである。彼とは30数年のつき合いだ。Kさんは、寿で暮らす人たち、日雇労働者が不当な生活を強いられている根源は、天皇制にあるとよく主張していた。飯場仕事の合間に相談室に訪ねてきてその持論を話していくことがあった。でも、そのたびに感ずる違和感があった。Kさんは本当にそう思い感じているのだろうか、と疑問がわくのである。Kさんが人助けに奔走するのにも、僕は同じような違和感を感じていた。Kさんには自分の悩みを自分自身の思いを語ることがあるのではないか。それを聞きたいし知りたいと思うのだった。Kさんの左目はかなり不自由なようで僕の方を見るときは顔を少し上に傾け見下ろすように見る。日雇い仕事では目は大事だ。不自由なことがいろいろとあったことだろう。

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