寿で暮す人々あれこれ
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— 67 —寿で暮らす人々あれこれある日、隼人が病で倒れ入院した、と親しいシスターから聞かされた。虚を突かれた思いだった。あの不死身の隼人が?入院から大分経っていた。入院した当初、隼人は誰にも会いたくなかったようである。しばらくして、シスターから面会に行ってあげて、と連絡が入った。さっそくお見舞いに行った。隼人は脳梗塞の後遺症で身体も発音も不自由だった。隼人を知る人たちと何度かお見舞いに行った。隼人は、見舞いを喜ぶというより心なしか迷惑そうな様子に見えた。口数も少なかった。隼人はその後数年を経ずして脳梗塞の後遺症からの回復が芳しくないまま亡くなった。寿に確かな存在を残していた人がまた一人亡くなった。取り残されたような気持ちは頼りなく寂しいものだ。合掌。神さま… ─ 坪井さんのこと坪井さんとのお付き合いは、お付き合いといえるものかどうか…年数は長いのだが、坪井さんの歳も生まれた所も知らない。その故事来歴はほとんど知らない。坪井さんは、僕が忘れた頃にふらっと現れる。相談室にはほとんど入ってこなかった。当センターの外門の付近か、街の通りすがりで声をかけてくる。そんなときはいつも仕事から帰った様子の作業着姿で、顔は陽に焼け、丸い顔、丸い目、丸い鼻、厚い口唇…、目が澄んでいるのが印象に残る。労働のなごりか顔はなぜかいつも汚れている。会うときは、夏でも冬でいつもそんな感じだ。少しお酒が入っていてしきりに話しかけてくる時がある。ぼそぼそと東北の地方の訛りだろうか、強い訛りと少し吃音があって言葉が聞き取りにくい。仕事の話なのか、生活の話なのか…。僕は懸命に察しようと努めるのだがほとんど聞き分けられない。話しかけてくる顔は、今にも泣き出しそうな表情に見える。心なしか目じりに涙がたまっているように見

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