寿で暮す人々あれこれ
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— 42 —生き物には魂がある ─ 床井さんのこと福祉事務所のSW(ソーシャル・ワーカーの略・相談員のこと)から相談があった。数年間、精神病院に入院している50代の女性のことだった。本人も退院を望んでいるので、地域で生活できるようにしたい、ということであった。病院側では、地域で生活できるという意見だという。これまで実現できなかったのは、家族や親族が引き受ける状況にないという事情があった。SWは、寿での生活についての是非と可能性について意見を聞きたいということで、相談の結果、なるべく、居住者の多くない静かなドヤを確保することになった。床井さんは、SWの熱意と奔走で親族からも了解を得て、寿で生活することになった。寿での生活を始めるにあたり、SWと一緒に訪ねてきた。気さくで、話し好きな小柄なおばあちゃんだった。部屋は2階で6畳ほど。他のドヤの部屋に比べ広く、同じフロアには4部屋しかなく静かだった。日にちが経ち、箪笥など家具も入り整っていった。この箪笥は、拾ってきたものだという。一人でやったというがどうやって運び入れたものか?何とかなるものよとニコニコしている。ある日、床井さんは「死んだ猫がかわいそうなので、環境局の人に引き取ってもらえるように頼んで。費用は負担しますから」と言ってきた。僕は初めてのことなので、いわれるまま半信半疑で連絡をとった。環境局は引き取りに来てくれるという。床井さんは「ちゃんと葬ってくれるのよ」とホッとした様子で帰っていった。暫らくして、床井さんは、今度は犬を引き取ってと言ってきた。前の猫は飼い猫ではなかったのか?それからも、床井さんは時々犬猫の引取りを頼みに来たのである。床井さんのお部屋を訪ねた。床井さんに話を聞いた。「犬でも猫でも生き物には魂があるのよ。町を歩い

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