寿で暮す人々あれこれ
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— 38 —自由闊達な中西さんの姿が、寿から見えなくなった。担当SWの紹介で他県の牧場に住み込みで働くことになったと人づてに聞いた。驚いた。中西さんが働くというイメージは、僕にはなかった。1ヶ月ほどすぎた頃、中西さんが無銭飲食で捕まったという話を聞いた。担当のSWに話を聞いた。就労指導の末、ようやく決めた就労先だった。牧場主は「早く起きなくて、あまり働かない」といって困っていたという。それからしばらく、中西さんと寿で再会。ちょっと生気がなかった。中西さんはとつとつと話してくれた。つなぎ合わせると「一生懸命働いたよ。でも僕には勤まらなかった。朝早くから夜までだもん」行く当てもなく牧場を出た。お腹がすいた。たまらなくなって食堂へ。お金はない。中西さんは、過去に就労指導を受けて勤めきれなくて、同じように無銭飲食ということが何度かあったようである。親切で熱心なSWの勧めを断ることはむつかしいだろうと思う。中西さんは、寿であれば自分のペースで困ったことになっても自分の才覚で何とか生活していけるようなのだ。しかし、新しい環境の中に置かれると対応できなくなって、自分でできる解決は、そこを抜け出すことしかないようだ。無銭飲食は中西さんの生きるための意思でもあるだろう。生活力と危機回避の力は持っているけれど、その行動は「社会の秩序」とはギャップがあり、逮捕ということで結末がついてしまう。社会から見れば「わがまま」なのだろうが、中西さんには「わが、まま」ではないか。「正しさ」を装う主張は人を追いつめ、時として死を招くこともある…。リセットして、また、中西さんの寿の生活が始まる。

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