寿で暮す人々あれこれ
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— 33 —寿で暮らす人々あれこれ病院へ挨拶をすませた後、息子さんの傍らに座り屈託のない朗らかな大声で、この一ヶ月の出来事を耳元で話す。息子さんが反応を示すと、ゆきさんは大喜びして「むらちゃん、見て、みて、前はこんなことなかったよ」ゆっくりとした時間が流れていく…。ゆきさんは、息子さんに「また、来るからね」。予防注射で「三年間」!? ─ チヨさんのことチヨさんが寿で暮らすようになった経緯がおもしろい。八王子市の或る旅館の仲居をしていたチヨさんは、ある日、寿地区の様子がテレビで放映されたのを見た。オイルショックで日雇いの仕事がなくなって生活に困った寿の人々の状況のドキュメントだった。そのシーンのひとつにお年寄りが相談を受けている場面があって、それを見て、チヨさんは「ここは人を大切にしてくれるところ」と直感したのだという。すぐに寿へ行きたいと思った。早速荷物をまとめチッキで送った。身ひとつで横浜駅に来た。荷物を受け取りタクシーで寿町にといったら「あそこに行くと殺されるよ」「危ないからよしな」等と言われ何台かに断られた。「近くまでなら」ということで、ようやく寿に辿りついた。寿の町に入ってうろうろしていると、男の人が声を掛けてくれた。事情を話すと「俺の知っているところを紹介してやろう」といまのドヤを紹介してくれた。ある日、チヨさんの部屋を訪ねた。4畳半にコタツ。茶箪笥や洋服ダンスなど置かれている。コタツやタンスなどは町の人が「ばあちゃん、これ使いな」と置いて行ってくれたものだという。「町の人は親切でよくしてくれるの」チヨさんは、世話になった人たちに靴下やチョッキを編んであげた。「私の人生で、いま

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