寿で暮す人々あれこれ
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— 32 —いをみる限り、どうしてどうして寿の男たちが一目おくゆきさんにも一歩も引かずやりあう気の強いところがある。さて、ゆきさんには夫と子どもが二人。ゆきさんは、家事や育児が苦手で小さな子どもたちはどうも放りっぱなしのようだ。タカさんは一人暮らし。いつの間にか、ゆきさんの二人の子どもたちは、タカさんが育てゝいた。お姉ちゃんの手を引き、弟はちゃんちゃんこにおぶい寿の中を歩くタカさんの姿を見るようになった。知らない人が見れば実の親子のようだ。タカさんは、独特の抑揚のある話し方で「あの女はよう、いつも遊び暮らしてよう、子どものことなどちっとも見ようとしねェだよう。困ったこんだよう、まったく」などと言いながら、せっせと子育てしている。ゆきさんは、あるときタカさんのことをこんなふうに言い放った。「あのばばあはよ、過保護なんだよ、過保護!」でも、その表情や口調には、タカさんに感謝していることを感じさせるものがあった。ゆきさんとタカさんと子どもたちの関係は平穏で、子どもたちが中学を卒業するまで続いた。やがて、子どもたちは親離れならぬタカさん離れをしていった。今では子どもたちはすっかり成人。いま、姉は福祉施設で生活し、弟は病気で寝たきりとなり入院している。ゆきさんは、新しい相手と生活して相変わらず元気でじっとしていない。前夫の消息は? タカさんは、親族が迎えに来て引き取られていった。タカさんは、その後、何度か僕のところに訪ねてきてくれたが「うんとさびしいよう。寿がいいよう」ゆきさんの息子さんの入院は長期になって何度か転院した。ゆきさんは、娘さんの施設訪問や息子さんのお見舞いには月一回はかならず行く。その時はわくわくとして、まるで小旅行に行くように楽しそう。僕は、息子さんの身元引受人なので、時にゆきさんと同行することがある。ゆきさんは、看護婦さんや息子さんにお土産を買う。病院の人には世話になっているからと、いろいろ気を使う姿はこれまで知らなかった一面だ。

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