寿で暮す人々あれこれ
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— 31 —寿で暮らす人々あれこれ思わせた。一枚の紙切れが出てきた。裁判所からの呼び出し状。そこには、罰金を払えとあった。奥さんに聞くと、路上博打をしているところを逮捕されたとか。丁半博打では常に丁方(二つのサイコロふって足して偶数の数)にしか賭けなかったという。さて、写真が数葉。そのうちの一枚。メーデーの列に彼が写っていてプラカードには「日雇労働者に年金を」と読めた。彼の遺志はまだ実現されていない。後日、寿で働く友達数人と彼の古里を訪ねた。弟さんと従いとこ兄弟さんに会い「勘さん」が村で生活していた頃の話を聞いた。村では、一度言い出したら後引かない頑固者で通っていて、将来は名のある「侠きょうかく客」になるだろうと言われていたという。そういう人のことをこの土地では「一いっ風ぷりゅう流」というのだそうである。弟さんはいくつか思い出話をしてくれた。小さい頃、どこまでも真っ直ぐ歩き続ける遊びをしたこと。また、奉公に出た姉を慕い山坂を越えて一人訪ねて行ったこと。長じて、さまざまな仕事をしたが、なかなか続かなかったことなど、弟さんは笑いながら話した。生前、彼は「自分の気に入らない人の下では働かないんだ」と言っていたことがあった。上肩は、そして日雇は彼の天職だったのだろう。今は故郷の墓に眠っている。合掌。わたし産むひと、わたし育てるひと ─ ゆきさんとタカさんのことあるドヤに、ゆきさんとタカさんというご婦人が暮らしていた。二人の性格は対照的で、小柄なゆきさんは、何事にも積極的で、カメレオンのような丸い目は好奇心まるだし。寿のさまざまな活動にはよく首を突っ込む。特に祭りは好きだ。肥満のタカさんは、引っ込み思案で穏やかな人柄。しかし、ゆきさんとの言い争

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