寿で暮す人々あれこれ
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— 30 —重い荷もリズムよく軽やかに運ぶのだ。リズムが狂うとあゆみの反動で投げ飛ばされて荷物ごと海中に落下という大恥をかくことになる。上肩たちは誇りを持っていた。誰でもが出来ることではない。上肩は重労働だから、艀には塩が盛大に用意されていて、上肩たちは、わしづかみにほおばりながら働き、汗は塩になり身体にこびりついたという。彼はノドが良かったから仲間に請こわれよく唄った。上肩たちは、その調子に乗せられて踊るように荷を運んだという。彼が唄うと仕事がはかどり早く終わったそうだ。あるとき彼にせがんだ。照れくさそうにさわりを歌ってくれた。或る日、彼は保育所の前の職安広場で突然倒れ亡くなった。脳溢血だった。その日、僕は不在で彼の死に目にあうことが出来なかった。町の多くの人たちで葬儀をした。後日、奥さんと遺品を整理している時、彼が着ていた作業着が出てきた。その作業着は、刺し子のように何度も当て布して縫い直されていた。両腕に抱えるとずっしりと重く上肩の激しい労働を日雇いに天職を見つけた一風流

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