寿で暮す人々あれこれ
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— 171 —寿で暮らす人々あれこれベルでのボランタリーなアルコールセミナーの開催、プログラムを作っての出前セミナーの開催(各市町村の保健所とのミナーの共催)などの活動を促進していきました。この動きは、やがて、一般市民向けのセミナーの開催に向かいました。横浜駅西口にあった当時の神奈川県政総合センターのホールで「アルコール依存症は回復する病気」というテーマで開催しました。寿というマイナーな地域から横浜の中心地へ。聞きに来てくれる人はあるだろうかと不安でしたが、約250人のホールがいっぱいとなりました。このアルコール依存症セミナーはこの会場で3回続くことになりました。さて、この経過の中で大きな節目が訪れます。東京都の精神衛生研究所を舞台に活躍していた斎藤学精神科医と東京都を中心に活動していた「アルコール問題を考える会」(以下 考える会と略す)との出会いでした。斉藤医師は、精神科医としてもAAの12ステップを深く理解されていました。考える会は幅広い活動を展開していて、中心的に活動していたのは、アルコール依存症者の「妻たち」と、断酒会のメンバーの人たちでした。「妻たち」の夫はまだ飲んでいる方々でした。寿では、単身のアルコール依存症者が対象のすべてでした。この出会いで家族の存在とその問題を知ることが出来ました。第2回のセミナーでは、考える会の方々と準備段階から交流が始まりました。セミナーの体験談に初めて妻の話が加わりました。この体験談は印象深いものでした。「何とかして夫を救いたいという思いで長い間試行錯誤を重ねてきたが、どうしてよいかわからない状況が続いた中でたどり着いたのは、夫の問題ではなく自分の問題、生き方だったと気づきました。夫を何とかしたいという囚われから自由になれた瞬間でした」 彼女はやがて、夫に告げたのです。「あなたの命はあなたに返します」その言葉を聞いたとき、僕は体が震える感動を覚えました。彼女は、自立した女性として、人間として人生を歩き始めたのでした。後日、彼女は、自分と同じ悩みや境遇を持つ女性の支援施設を立ち上げることになります。話が際限なく広がってしまいました。

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