寿で暮す人々あれこれ
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— 165 —寿で暮らす人々あれこれ寿の多くの人たちは、単身者です。天涯孤独という人もいらっしゃいますが、家族や親族や社会関係から孤立した状態の人が多いといえます。定職を持たない人が多い寿で暮らす人々は、病気や景気の悪化、高齢などで「生活保護」を受けて生活するようになっても、それをステップに仕事を得て将来的に安定した生活を作り上げていく事は極めて少ないようです。仕事ができないまでも安定した生活を継続していくというのもなかなか難しいようです。どうしてなのだろうか… 長い間の僕の中の問いでした。僕たち相談を受ける者は、少なくとも、現在の生活状況が悪化しないように、できれば生活保護を廃止して生活できるようにしていくよう努めていました。しかしそうならないのです。先の「どうしてなのか…」と言う思いは、相談を受けるものの姿勢から発した問いでした。しかし、その問いからは全く先に進めなくなりました。この問いは、自分の努力が足りない、もっともっと努力し勉強し良い人間にならなければならないと自分を責め叱咤激励を強制しました。あるいは、この人はどうにもならない人だと相手を責め、寿の人に対するひそかな蔑みや絶望を自分の中に育てるばかりでした。自分がつらくなるばかりでした。何かおかしい…そのような思いと葛藤を抱えながら時は過ぎました。僕は、相談者の視点からの問いをやめることにしました。僕は自分の気持ちに囚われて相手のことを少しも理解していないことに気がつきました。というより、理解しようとしなかったと言えるでしょう。自分の中に、相手の力になりたい、何とかしてあげたい、役に立ちたい、感謝されたいという気持ちが薄れ、意識することが少なくなってきました。自分の気持ちが楽になってきました。そんな気持ちになって、少しずつ周りの風景が変わってきました。変化の可能性のある人の相談、尽くし甲斐のある人の相談を無意識に選んでいた自分にも気がつきました。少しずつですが出会う一人ひとりの方に親しみの気持がわいてきたことでした。これまで、理解しがたい

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