寿で暮す人々あれこれ
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— 160 —現いま在、この街は静かだ。広場も道路もきれいに清掃され沢山の花も植えられている。あの頃の「羅漢たち」の姿は無く皆老いてしまった。一通り話を終えた所長は心なしか寂しそうな顔をすることがある。開港都市横浜にあり、長者町・不老町そして寿町とこの世の桃源郷のような名を持つ街の一廓が歩んだ歴史は意外と知られていない。寿町そのものの存在を知る人も決して多くは無いだろう。表舞台には決して出ることのないこの街には都市社会が失った貴重な何かが存在する。私は二杯目の炊き出しの列に並ぶ。定番は雑炊やカレーかハヤシライスが多いが飽きることは無い。最初(一杯目)ほど急ぐ必要は無いので広場の端でゆっくりと食べる。春の風はあたたかく満腹感とともに眠気も増すがこのまま寝てしまえば良いだけのことだ。道路を挟んだ向こうには保育園があり、放たれた門扉、園庭の「ねむの木」の下では子供たちが元気にはしゃいでいる。ずっと昔にここに居た気もするが思い出せない。目が覚めればこれは夢なのかもしれないが仮に現実であっても一向に構わない気がする。保護者・関係者の皆さまへ2年という短い間でしたが本当に楽しく仕事をさせていただきました。4月からは新しく開園する大倉山保育園で一足先に向こうで頑張っている田中先生たちと合流します。寿を去るのは名残惜しいのですが、新しい保育園での仕事に期待も膨らんでいます。色々と有難うございました。後任の小作先生のことも宜しくお願い致します。事務所 瀧井勝則

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