寿で暮す人々あれこれ
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— 153 —寿で暮らす人々あれこれ保育所で招いてみないか、とすすめられ実現したのでした。余談ですが、皆さんはタイのクロントイスラムの幼児教育への傑出した貢献で、アジアのノーベル賞と言われるラモン・マグサイサイ賞を受賞したプラティープ・ウンリンタムさんをご存知ですか。彼女もクロントイスラムで育ちました。30数年前、まだ20代の若々しいプラティープさんが、寿町2丁目にあるファースト横浜バプテスト教会の益ます牧師のご紹介によって、当保育所を見学に訪れたことがありました。その見学がウンリンタムさんの事業の力になっていたら素敵なことです。ニコロ神父の話に戻ります。ニコロ神父は、ストリートチルドレンを対象に幼児から大学教育まで、様々な施設とプログラムを持って運営しています。そのプログラムは活動している中で広がっていったのだそうです。その中で印象に残った話がありました。ニコロ神父の運営する施設の最初のステップは「24時間出入り自由の施設」でした。そこではどんな子どもも無条件で受け入れます。受け入れる時は衣服を含めすべてを預かります。出たい時はとどまるよう説得はしないで預かった荷物はすべて返します。薬物を持っていた場合は返さない、と聞きました。24時間出入り自由の施設から始まり、幼児教育、中等教育、高等教育、職業教育と年齢や子どもたちの状況にあわせてプログラムを実践しています。その始まりは「自由」からというのが印象に残りました。さて「24時間出入り自由の施設」、これを聞いて思い出しませんか。そうです。寿ドヤ街のことです。寿の簡易宿泊所は、24時間出入り自由です。アルコール依存症の人を例に考えてみましょう。依存症の人が治療に繋がったり、回復に繋がったりするのは、易しいことではありません。プログラム通り進みません。長い時がかかるのが普通です。ようやく落ち着いて治療プログラムを実践します。このような紆余曲折の時間の経過を過ごせるところはほかにはありません。寿は、アルコール・薬物依存症の方々が治療につながるまでのいわばプレ施設の役割も果たしています。

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