— 150 —その日は、六甲の旅館に泊った。大賀さんは、妹さんたちに、これまでのことをすべて話したという。この夜、大賀さんは、興奮を表情に浮かべてせきを切ったようにいろんなことを話した。 横浜に戻り、大賀さんはアパートを探した。念願の住民登録も済ませた。後日談弟さんや妹さんとの手紙のやり取りもできるようになった。アパートに転居して1カ月程後、弟さんがアパートに訪ねてきて一晩ゆっくり話し合った。翌日、大賀さんは弟さんと一緒に寿福祉センターを訪ねて来てくれた。郷里からは、栗やシイタケなど送ってくれるようになったという。大賀さんの表情は輝きを取り戻した。大賀さんの本名は、○○安兵衛さんといった。過去をとりもどす(その2) ─ 鈴本豊さんのこと飄々とした雰囲気の、おだやかなご老人…。しかし、赤銅色の顔に細かく深く刻まれた多くの皺しわはこれまでの人生を無言に語っているようにも思えました。人との関係は交わるでもなく、また、人を避けるでもなく一定の距離間を持っているように見えました平穏な日々が続いていたある日、鈴本さんから意外な相談を受けました。妻から離婚してほしいといわれているので手続きをしたいということでした。過ぎ来し方をお聞きしました。千葉県夷隅郡の生まれ。「父は大工でした。仕事で各地を転々と渡り歩いていました。もの心ついた頃は、伯父や叔父が世話をしてくれていました。10歳の頃に埼玉の鋳物工場に奉
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