寿で暮す人々あれこれ
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— 131 —寿で暮らす人々あれこれ訪問に行かれないということに。相談員にとって家庭訪問は大切で当たり前のことだ。「なぜ訪問に行けないのか」上司に詰め寄ったが納得できる答えはなかった。女性相談員たちと相談して「家庭訪問をしたい」と何度も上司と話し合ったという。その結果、男性相談員と一緒ならばよいだろうということになった。須藤藤さんたちは、それでも納得できなかったが、一歩前進として受け入れた。男性相談員と同行して家庭訪問は行われた。そして半年ほどが経過した。須藤さんたちは、改めて上司と話しあった。「私たちは一人前の相談員である。いつまで男性相談員と同行の家庭訪問が続くのですか。一人で訪問したい」と。そんな経過があって、訪問が実現したのだった。須藤さんは、訪問が出来るようになったある日、訪問する日時をドアに挟んできた。そして、訪問に出かけた。その方は、部屋を掃除して待っていた。須藤さん用に座布団も用意されていた。お茶も入れてくれた。何人かの訪問を終えて職場に戻った須藤さんに電話があった。「須藤さんが着ていた洋服とっても似合っていましたよ」ということだった。こんなことを言われたのは初めての経験でうれしかったという。須藤さんには「歩く日 私のフィールドノート(平成7年、ゆみる出版)」という本がある。初めての家庭訪問のときは、周辺をゆっくり歩いていくのだそうだ。どんな所に住んでいるのか、を見ることは人を理解する手助けになる。バスで向かう時はひと停留所手前で降りて歩くという。須藤さんの心の中には、地域の様子に触れながらこれから訪問する人への想像が広がっているのだろうか。「歩く」ことに、相談員としての須藤さんの人に寄せる敬意と思いやりがあふれているように思われた。

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