— 130 —に戻りたい」というお母さんの気持ちは思いのほか固かった。転校手続きをしてほしいと要請されるが、その後、どのように展開するかわからないので、実家に落ち着いてから改めて考えようということにしました。増子さんから実家についたという連絡をもらってしばらくたったころ、お父さんがやってきて「妻や子どもの居場所を知っているだろう、聞かせてくれ」と言ってきました。僕は、やはり来たか、というホッとした気持ちを抑えて、お父さんの話を聞きました。今度ばかりは増子さんも本気かな、と思っていた矢先、増子さんが、子どもを連れて相談室に現れた。「子どもがどうしても帰りたいと言うので…」 増子さんの表情はこころなし明るく見えた。さて、転校手続きのやり直しをしなければ。福祉事務所のワーカー ─ 須藤さんのこと 福祉事務所のソーシャルワーカー(生活相談員)の須藤さんは、女性の相談員である。他区から異動し寿地区の担当になった。20年ほど経験のあるベテランである。ある日、当相談所を訪れてきた。目が大きく活発な方だった。須藤さんはよく相談室に来て雑談をしていった。寿地区の担当になりたい思いを長く持っていたという。須藤さんは、5年間ほど寿地区の担当をしていただろうか。その後、愛知県にある大学に教授として招請されることになり、横浜市を退職することになった。そのことが決まったと伝えに来て雑談となった。その時の話が印象に残った。次のようなことだと記憶している。須藤さんは、寿地区のドヤを受け持ってしばらくして大変なことに気がついた。女性相談員はドヤの家庭
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