寿で暮す人々あれこれ
127/189

— 125 —寿で暮らす人々あれこればれていた)お迎えに来るのを待っていた。山本さんの部屋に何度か訪ねても気配がない。保母さんはのんびりと子どもとおしゃべりしている。そのうち保母さんは、子どもの顔にマジックでヒゲを書いて二人でキャッキャと楽しげに遊んでいる。のんびり、おおらかな時間が過ぎていく。迎えに来なかったらどうしようね、家に連れて帰らなくちゃいけないのかなあ…などと話しながら時間を過ごしていた。いろいろと思案していた午後8時ころ、警察から電話があった。夫婦ともに覚せい剤取締りなんとかで現行犯逮捕したとのこと。取り調べ中に「あっ!わすれてた」お母さんが思いだし電話となった次第。びっくりするやら安心するやら。結局、児童相談所の一時保護所に入所ということになった。さてそれからが大変。児童相談所に連絡してからひと騒動、健康診断をしていないと受け入れられませんとのつれない返事。そんなこと言われたってこれから健康診断なんてできないし、児童相談所のほうが対応の選択肢は多いだろう。押し問答の末、受け入れてもらうことになった。もう30年ほど前の話である。子どもは無事卒園しました。後日談。お母さんは、いまも健在で寿で一人暮らしをしている。60代の半ばになるだろうか。息子さんは所帯を持ち市外で生活しているとか。お父さんのことは聞いていないのでわからない。どうも、いろんな意味で女性のほうが男性よりたくましく生活力があるようだ。寿で働かせていただいて40年有余、その間に感じた僕の堅固な思いである。保育所の保護者の方々(その2) ─ トオル君のお母さんのこと トオル君は5歳のときに入園してきました。小柄でやせっぽち。あまりはしゃぐことも、大きな声で笑う

元のページ  ../index.html#127

このブックを見る