寿で暮す人々あれこれ
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— 115 —寿で暮らす人々あれこれだろう。仙人のようにも思えた。いつの頃からか、僕の記憶や日常の風景からヤブちゃんの姿が薄れていた。そんな日々のある日、久しぶりに広場で見かけた。あっ!ヤブちゃんだ。生きていた、なつかしい…と思って声をかけた。それがヤブちゃんとの出会いの最後になった。あれから何年たっただろう。僕の中でヤブちゃんの消息はぷっつりと途切れたままである。ヤブちゃんにアルコール依存症の回復のためのプログラムを紹介しようと何度か思ったことがある。でもその機会はとうとう訪れなかった。なんというか、声をかけることがなぜかためらわれたのである。不思議な人だ…と思う。もう一度会いたい。あったらいろんなことを話せるだろうか。きっと、今まで以上でも以下でもないだろうな。焚火の場は、駐輪場となって今はない。上半身裸の人物がヤブちゃん

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