寿で暮す人々あれこれ
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— 114 —重機の職人!? ─ ヤブちゃんのことヤブちゃんはヤンカラ部隊の常連だ。ヤブちゃんと飯場で出会った労働者は「腕のいい重機の運転手だよ」と言っていた。ヤンカラ部隊とは、寿の港労働公共職業安定所の広場で、一年のほとんどをたき火を囲んで過ごす一群の人たちのことを指す。主なメンバーはアルコール依存症の人たちである。飲んでは寝込み、また起きて焚火のそばで何日も過ごす。全身灰だらけになる。この焚火のそばで暮らす人たちはほとんどドヤには泊らないようだ。ここから手配師に声をかけられて飯場仕事に行ってもこの場に戻ってくる。この場から救急車で入院しても退院してもどってくる。焚火の場と飯場と病院と寿の酒屋がヤンカラさんの限られた行動範囲である。この繰り返しで年が過ぎる。これが暮らしとはいえないかもしれないが、ヤンカラさんにとっては、焚火のまわりは居場所であり生活の場である。焚火の傍らで、大勢の人の中でひっそりと亡くなっていく。でもヤンカラさんの数は減らない。ヤブちゃんは、ヤンカラ部隊にいる時は、必ず上半身裸で胡坐をかいて飲んでいる。気持ち良さそうに酔って何やら独り言をつぶやいている。声をかけたりすると「ごめんな、勘弁してけれ。怒らないでけれ…」というのが口癖。痩せ身でなんとも愛嬌のある人柄はヤンカラさんの中でも異彩を放つ。ヤブちゃんと出会い10数年になるが、僕の知っているヤブちゃんは、この会話以上でも以下でもない。酒が入ってないヤブちゃんに出会った記憶はない。当たり前のように過ぎる年月の中で、出会いを重ねるうちヤブちゃんへの親しみの気持は深くなっていたが、いざヤブちゃんのことを思い出そうとすると何も浮かんでは来ない。生まれ故郷も知らない。年齢も知らない。相談にも来たことはほとんどなく、無心もされたことはない。ヤブちゃんとともに過ごした多士済々の同時代のヤンカラさんが亡くなっていく中で、ヤブちゃんの姿は焚火の中に居続けた。ヤンカラの生活を10数年続けてもいつものヤブちゃんに変わりない。あの細い体はなんと丈夫なん

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