— 103 —寿で暮らす人々あれこれハッタリ八分に実力二分 ─ ハッタリさんのこと「この商売はなあ、ハッタリ八分に実力二分だあ」酔うとよくしゃべった。「甘く見られちゃあいけねえんだよ」現場も人も変わることが常態の日雇稼業の苦労がうかがえる。作業着に手甲、12枚コハゼの地下足袋がきりっとよく似合う小柄な兄いだ。飯場で働くことが多く、定期的に顔を見せに来た。改まった相談ということはあまりなく、とりとめのない雑談だった。彼の口調は伝法だが暴力には無縁で、反発されるとするりとはぐらかした。どちらかというとやさしく小心かも知れない。何年かたったころ、お酒の酔いが深く、話す言葉は不明瞭で意味も不明になってきていた。その頃から、トレードマークの口上がちょっと変わってきた。「ハッタリ八分に見せかけ二分だあ」、えっ!それって実力ゼロってこと?「そうだあ、文句あっかあ、知らねえうちにそうなっちまったあ」彼の話には、独特のユーモアと寂しさ、照れくささが漂っていた。少し突っ込んで聞いたりするとかわされてウヤムヤな話になってしまう。そんなわけで長いおつき合いだが、彼の故事来歴はほとんど知らない。何回か、生い立ちを少し話してくれたことがある。おじさんに育てられ、物心ついたころは働いていて、おじさんとの間にはいい思いはなかったとか。やがておじさんの家を飛び出したという。僕との出会いから十数年「仕事ができない、なんとかしてくれ」と相談に来たが、途中で帰ってしまうこともあった。しばらく友だちに世話になっていたようだ。その友だちが同行して相談に来たが、ハッタリさんは、何とかしたいと思っているのかわからなかった。警察署から電話があった。彼の身元確認だった。酔ってある家に不法侵入したという。彼は覚えていなかった。ある時は行き倒れて入院もした。退院して相談にきた。「もう、酒はやめたい」、睡眠薬を飲んでいるが眠れない、できたらやめたいと相
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